ツェントラール'32

猫町大五

第1話

「・・・何かないかなあ」

 ツェントラール・シティ、一九三二年・午後一時。街外れの豪邸より。

「今度は何をする気だ」

 そこには、金髪の大男と幸薄そうな少女が住んでいた。

「それがないからこうしてるんじゃないか、君」

 白衣に身を包み、鼈甲縁の眼鏡をかけた少女は、退屈そうにラジオを弄っている。

「それよりも・・・二階のマスタードガス、どうにかしろ。危なくて敵わねえ」

「もう少しで面白いものが出来そうなんだが」

「寝室の隣に毒ガス置かれる身にもなれよ」

「適度なスリルがなくちゃ、人生面白くないだろう?」

「過供給なんだよ」

 そんな中。

『・・・お昼のニュースをお伝えします。昨日夜十一時頃、ベイサイド・シティの中央銀行において強盗事件が発生、閉店間際を襲った犯人は過激派ギャング団のコバルト・ブラザーズと判明しました。同組織は犯行声明を発表、同時に明日昼十二時にツェントラールの中央銀行を襲撃するという事です。詳細は追って・・・』

 

「過激じゃねえギャングなんざあるものかよ、なあ・・・」

「・・・見つけたぁ」

「・・・おいおい」

 少女の顔に、明るさが戻っていく。

「やっぱり良いよ、この街は。こうでなくっちゃ」

「また『強盗返し』か、飽きねえなあ」

「君も来るんだよ」

「・・・・・・お前なあ」

「ランチア・・・いやロールスだ、君。十五分後に出発!!」

 浮足立ちながら、少女は自室に入っていく。鼻歌付きで。

「・・・これだからなあ」

 そういった男の顔にも、獰猛染みた笑顔が浮かんでいた。

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