第69話 しみゅれーしょん
ついに出しましたよ、カヨさんの勇気!
と言っても大したことではありません。
――衛生係の分担をお願いします。
たったこれだけのことを言うのに、どれだけ悩んだことやら……。
なにしろ自律神経を病んで以来、すっかり気弱になっておりまして。
以前のカヨさんなら、関西系ж§∑さんに電話で「街◇車を横づけしてやる!」なんて脅されても、「あ~ら、上等じゃないの!」木村拓哉まがいの台詞で平気で応酬していたのに、いまやちっちゃなちっちゃな蚤の心臓なのであります。(汗)
そもそもは。
3月に地域の役員(まわり持ち)が集まって、今年度の役割分担を決めたとき、昼間も家にいる、したがって結果的に地域を仕切っている自営業や主婦の間で事前に下話がついており、もっとも大変な衛生係は圏外のカヨさん、しかも、例年ならふたりで担当のところ、今年はなぜかひとりで……一方的に申し渡されたのです。
カヨさんの持ち場のゴミステーションは、置き場を設置するスペースがないのでいまだに野天のままの巨大な集積場で、春夏のステイホーム期間のゴミは半端ではなく、飲みかけの酒の缶と生ごみが一緒になっているなど、分別はゴチャゴチャ、ネットの隙間からカラスがつつく、通りすがりの車の不法投棄など、最悪の状態。
月火金と週に3日、収集車の回収に合わせてお昼近くまで拘束され、とくに毎週月曜日は朝5時から種類別資源物の容器の設置と撤収で息切れするほどの大仕事、なんやかやで、ただでさえ病気で痩せていたところ、さらに痩せてしまいました。
で、昨日、久しぶりに役員が集まる機会があり、コロナ禍の時世になにも……と思うような些細な案件でしたが、都合よく利用させてもらうことにしたのです。
本来なら恨み言や皮肉のひとつも言いたいところではありますが、それをしたらますます問題を複雑化させるだけなので、ここはひとつ、ぐっと丹田で堪え、
――当たり前のことを当たり前で通すには、要件のみ簡潔に述べるべし。
何度もシミュレーションを重ね、不退転の決意(笑)で臨んだ結果、無事にOK。
来月からの解放を思うと、うれし過ぎて、つい頬が弛んでしまうカヨさんです。
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