第34話 せみしぐれ
自伝は基本自慢話のオンパレードだし、かといって伝記は隔靴掻痒だしねえ。
――歴史に翻弄された人物の復権。
大それたことを考えているカヨさんの前に立ちはだかるのがふたつの壁です。
どこに焦点を置けばいいのだろうと悩みながら坂道を上って行くと、ただでさえ短い一生を長い梅雨でさらに縮められた蝉の声が、うるさいほど降ってきました。
――ミーンミンミン、ミーンミンミン。
耳の底に沁みつきそうな蝉時雨を日傘でやわらげながら、ふと気づいたのです。
有吉佐和子さんの実験小説、
――『悪女について』。
に見るまでもなく、多寡はあれども人間は毀誉褒貶にまみれている。
傍目にはどう映ろうとも、本当のことは当の本人にしかわからない。
であってみれば、その人物の心に寄り添って書くしかないのでは?
しごく当たり前のことを、あらためて蝉時雨に教えてもらったカヨさんです。
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