第2話 折り合い





 

 カヨさんがもっとも折り合いをつけにくい相手、それは自分自身である。

 こうあってほしい、こうあるべきだ、こうあらねばならないと思っていたことがそのとおりにいかなかったとき(世の中で起こる出来事の大半はそうなのだが)、カヨさんはひどく打ちのめされ、いつまでもそのことから解き放たれずにいる。

 

 ――まあ、しょうがないか。あちらはわたしというわけじゃないんだし。

 

 あっさり認めて忘れ去ることができればいいのだが、なぜ思ったとおりにいかなかったのか、その理由を自分の内に見つけようとして、いつまでも考えつづける。

 そして、箱の隅まで追い詰められたとき、ある朝とつぜん冷めるのである。

 

 ――ま、考えてみたって仕方ないか、先方はわたし自身じゃないんだし。

 

 結局、何の解決にもなっていないが、そこはそれ、うまく折り合いをつけて、「自分以外の人が何を考えているかなんて、そんなことで悩むのはおやめなさい。人の心は永遠の謎なんですから」心療内科医の敷いたレールに、ひょいと乗る。


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