猛将の独白
第18話 分かち合えぬ恐怖
マリバル三聖将の一人、テラルガ・ド・フレアハートはよく怒る。部下をよく通るバリトンボイスで怒鳴り散らすのだ。
大半の原因は自己の不利益の為ではない。彼は火を扱う魔導がどれだけ危険かを熟知していて、それを蔑ろにする部下には加減しない。
彼らにとって魔導は武器。よく切れる刃物でも扱えなければ自身にとって危険だ。火を扱えなければ火傷をし、自己を燃やす。未熟な者を叱咤し、導くのが自分の使命だと考える。
昔の仲間は戦場でよく焼け死んだ。彼の言葉には重みがあり、それが伝わるのだ。
激情家のテラルガはナイーブになっていた。思い返したくは無いが思い返す。嫌な殺生だったと思う。
山中にある自身の邸宅の大きな窓辺でうなだれていた。国王からの呼び出しも無いから、今日の演習には顔を出さないでおこうと思った。
相手は魔導を志す者なら誰でも知る賢者。今でこそ引退して密かに診療所なぞ開いているが、かつては数多くの弟子を取り、山奥で厳しい修行を行い名だたる魔導士を育てた " アーク・マニエストロ " 。
絶対的な国王の勅令ではあったが、そんな人物をこの手にかける羽目になるとは。
対峙した時には死すら覚悟した。相手の凄まじい眼光は、老いているとは言えテラルガの手を震えさせた。相手は一人。こちらは五十。手練れの魔道兵士で取り囲んだが十二名の死傷者が出た。テラルガが死んでもおかしくは無かった。
最近の国王はどうしてしまったのか、と考える。まるで人が変わって、国王の殻に悪魔が入り込んでいるみたいだ。
かつてはそうでは無かった。先代の国王との不仲はあったが今のようでは無かった。今ではまるで感情を見せない傀儡の様でもあり、確信に満ちた目には我々も背筋が冷える事がある。
先日別の部隊が村を急襲した際もそうだ。情報源は定かでは無いが、辺境の山村にあのメッシリア王朝の国宝にして
( 手段は問わない )
最近国王の口からよく聞く言葉だ。その言葉を発する時の様子は機械的かつ事務的で、まるで人命を何とも思っていないように思える。
恐らくテラルガが意見をすれば国王は彼を更迭するだろう。死罪もあるかも知れない。
国王は何かを探していて、何かを集めていて、何かを得ようとしている様に見えた。ただの乱心であれば良いが、彼が本当に狂っていて、救いようの無い真っ黒なのであればそれは結末が見えないほど恐ろしい。
それは誰にどうする事も出来ない。彼の治世は安定していてマリバル中央や主要都市、我々軍隊や大多数の国民には素晴らしい君主である事には疑いようも無い。
テラルガは心底恐怖していた。何かが起こる予感に。
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