第17話 サロンの答え
キロは質問がありますと言った。
昨夜は礼拝堂に泊まったらしい。神父も心配で家で一人で居ないように進めたらしかった。
あくる朝、診療所を覗くと朝日が差し込む待合室を掃除するキロが居た。彼はサロンを認めるや否や朝食に誘った。
街は人通りが少なく、まだ積荷を引くロバも眠気まなこだった。パンを焼く香ばしい匂いに釣られて店に入り、余裕のありそうな商売人や戦いを生業にしていそうな無骨な男に混じって座る。紅茶とパン、それに腸詰なぞを注文し、それが来るまでにキロは質問を投げかけてきた。
「もしも、貴方がメッシリアの人間だったら」キロは口調だけは落ち着いていた。「その魔法剣でマリバルに仇討ちをしますか?」
「うーん」サロンは困った。「……分からない。なんせ記憶が無いからな。漠然と怒りはある。それがはっきりとしないんだ。それにまた記憶が飛んでしまうのはちょっとなあ」
「僕がその記憶の方の
「え。そんな事ができるのかい」思いもしなかった。
「今は分かりません。出来るのかさえ。なんせ
「
「それがマリバルが求める理由。
「国を消し去る……」
「僕がこの国を転覆させる事は無理でしょう。恐らく何十年修行しても、この国の何万という兵士を掻い潜って国王まで辿り着くのは無理です。同志を集めて戦争を仕掛けるにしても、出来るかどうか。しかし、貴方はそれが出来る」
突拍子もない事、とは言い切れないのが今のサロンだった。それはひどく現実的で、キロのその冷静さが逆にサロンを安心させた。
「それほどのものなのか」
「書物にはそうあります」
サロンは黙り込み、顎を撫でながら宙を見つめていた。少し髭が生えた。最近剃って無かった。黒い髪の毛も巻いて鬱陶しかったが、一つに結えようと伸ばしていた。何故かそうしようと思った。理由は分からない。
「何を考えていますか?」
ぼやけた思考の行き来から連れ戻される。
「少し考えたい。記憶が戻らなくても、自分が何者であるかを知りたい。その時に答えを出してもいいかな?」
「分かりました。いえ、僕が偉そうに言える立場じゃ無かったですね。すみません」
「いやいや、君の気持ちは察するよ。俺も腹が立つ」
いつの間にか目の前には料理が運ばれていた。さっき目の前に配膳されたのに、それが意識にも入りもせずに話し込んでいた。
二人は黙って料理を平らげた。
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