瞬息

 魔光がさく裂し、そのたびにどこかに痛みが走った。

 感覚は茫洋ぼうようとしてもはやどこまでが自分の体なのかもわからない。

 精神こころは――はるか昔へ置いてきた。王の楽夜を彩るよりも、魔の武道に生きると決めた日に。


(――おばあ様!)


 少女の声がする。

 かつて拾い上げた小さな命がいま、これほどに自分を追いつめている。その事実に浮かびそうになる微笑を凶笑で上書きした。

 むろんやられてばかりではない。むしろこちらが大きくやり返すことが多くなりつつあった。気力こそんで持続つづかなくなったが経験が違う。


(おばあ様――おばあ様、おばあ様――!)


 声は魔光が交わるたびに響いてくるようだった。

 したう声、悲しむ声、嬉々として一撃をとりにくる声。


「やれやれ」


 一皮むけたようでその実昔と変わっていない。いつまでも師ひとりしか見えていないから、そこから外れる自分を怖れている。

 もっともそう在るよう教育したのは精神こころをなくした自分で、だからこそこの仕儀ありさまなわけだが。どうしてこうなった。


「かくて道は途絶とだえ、若鷹は飛び立つのみ、か」


 まあ、強兵はかならずしも良き師ではなかったということだろう。業腹ごうはらだが仕方がない。一所懸命いっしょけんめいなどガラじゃなかった。怨恨や因縁も若いうちに作りすぎた。

 ああなんて粗削あらけずりに生きたものだろう。二度目があれば、とも思うが結局同じ道を辿りそうな予感もする。


「……む」


 攻め手を緩めたと同時、エレベアも気が付いたらしかった。

 いけない、時間切れだ。あまりに名残惜しいがゆえにこんなにも引き摺ってしまった。


 最後の魔光が迫る。

 エレベアは止めようとしているようだが土台間に合わない。そもそも自分にかわすつもりがないのだから。

 腕を広げ全身を水と化した。そのまま魔光を受け容れ、覆いかぶさるように突進して。

 ――全方位から打ち込まれた魔法に総身を貫かれた。

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