猛る龍

カラン、と猛風はBarの扉を開けると、中を確認。そこには、一人で酒を飲みながら待っていた。


「虎白様は?」

「今頃水祈と火月さんと3人で遊園地だよ」


そうか。と猛風が行った次の瞬間、一気に突っ込んで間合いを詰め、拳を握って殴りかかる。


「っ!」


龍はそれを口に含んだ酒を吹き、思わず猛風は足を止めた。その次の瞬間、


「っ!」


龍はテーブルの上にあったウィスキーの瓶を掴み、猛風の頭に叩きつける。


「フン!」


しかし、猛風は今度は怯まず足を一歩前に出し、掌打を龍の顎に打ち込み、ガラ空きになった腹部に拳を当て、次の瞬間、衝撃と共に龍は吹っ飛んだ。


そのまま店の椅子を壊しながら転がりつつも、立ち上がり息を整える。


「気持ち悪いな」

「良く耐えるのう」


ペッペと、口に溜まったツバを吐き捨て、龍は改めて拳を握った。


「愚かな男じゃ」

「あ?」


龍は眉を寄せ、猛風を見る。


「どうあがいても、貴様に勝ち目はない。獠牙リャオヤーにも、ワシにもなぁ!」


猛風は拳を握り、龍に殴りかかる。しかし、


「らぁ!」


龍は頭突きを放ち、猛風の拳を迎え撃つ。普通であれば、猛風の拳が砕けるだろう。しかし、鍛え抜かれた彼の拳は、砕けることはなく、寧ろ龍の額から血が垂れてきた。


「バカはてめぇだ。クソジジイ」


しかし、ニッと龍は笑い、


「喧嘩ってのはよ。相手がどれくらい強いとか、何人いるかっていちいち考えてやらねぇだろ。ムカつく、腹立つ、許せねぇ。そんな単純なもんでいい」


それにな、と龍は更に続けると、


「お前は言ったな。自分たちで探すと。それを虎白が考えなかったと思うのか?」

「……」


猛風は黙る。それは猛風もわかっていたことだろう。


「アイツにとって、獠牙リャオヤーは信じられる場所じゃない。だからこそ、アイツは自分でこの国に来たんだ」

「そうであろうな」


だが、と猛風は少し下がり、


「先代と誓ったのだ。虎白様を守ると。成長し、一人前となるときまで守ると誓ったのだ!」


猛風はそう言って、拳を握って構えると、足を踏み鳴らす。床が凹み軋む中、


「そうかい。なら俺は虎白と約束したのでね。母親の家族を見つけ出すってな!」


龍も同様に拳を握り、首を鳴らすと低い姿勢を取る。それはまるで、野生の獣が、狩りをするために取るような体勢。


「ガァ!」


龍の低い姿勢からの体当たりに、猛風は拳で迎撃。拳の速度自体はそこまで早くない。寧ろゆったりとした動きだ。


だが龍にあたった瞬間、凄まじい衝撃となり、龍の脳を揺らそうとする。


「ぬぅ!」


しかし、猛風も龍の体当たりにより衝撃で後ろに吹き飛びそうになる。衝撃を足元に逃がすが、それでも凄まじい衝撃だ。


「ダラァ!」


するとそのまま、龍は猛風の腰を掴み、そのまま上にぶん投げる。


「ハァアアアア!」


そしてアッパーの要領で拳を振り上げて追撃。


「ヌウン!」


しかし猛風は空中で力を抜き、龍の拳を受けると、


(軽い!?)


まるで羽を殴ったような感覚がし、そのまま龍の腕を転がると、床に着地した。


「フワフワしたり重くなったり忙しいやつだな」

「お前さんも大概バケモンじゃな」


猛風は振り返りながら、口から垂れた血を拭う。


「見たところ、なんの武術も身につけておらぬ。ただの頑丈さで突破し、馬鹿力で殴り飛ばす。そこに技術はない。野生の獣じゃ。だがそんなことは本来人間はできぬ。獣のような頑丈さやパワーはない。だから技を作ったのじゃ」


実際、猛風は恵まれた体躯の持ち主ではない。寧ろ、小柄な体だ。


だからこそ技を磨き、高めた。その技で、幾度となく先代の獠牙リャオヤーの当主を守ったのだ。


「じゃからこそ、負けられんのう」


そう言って、猛風は上着を脱ぎ捨てる。その肉体は一切の無駄がない。小柄な肉体を限界以上に追い込み、鍛え上げた肉体。とても老人の肉体ではない。


「そうかよ」


龍もニッと笑いながら、拳を握ったその時、


「やめて!」


そう言って店に飛び込んできたのは、虎白だ。その後ろには水祈と火月がごめんとアイコンタクトしている。


だが、


「悪いがやめられませんぞ。虎白様」


そう言ったのは、猛風だ。


「だめ!今すぐやめて!」

「なりませぬ!」


猛風の声が響き、虎白は体を震わせる。猛風が虎白に声を荒げることなど、今までなかったのだが、


「我が武は、力を捻じ伏せるために磨いたもの。今まで、幾度となくねじ伏せてきた。じゃが、この男はまだ立っている。それは我が武の敗北。それを認めるわけには行きませぬ!」


はぁ?と虎白があんぐりすると、水祈と火月がクスクス笑う。


「諦めなさい虎白。あれは止まらないわ」

「え?」

「そうねぇ。完全に男の子の目になってるもの」


虎白は理由がわからず首を傾げているが、水祈と火月は笑っている。そして龍も、


「来いよジジイ。ぶっ潰してやる」


それを合図に、猛風が突撃し、龍はカウンター気味に拳を放つ。だが、猛風はそれを肩を突き出して受けると、その反動を利用して回転して受けながらし、その勢いそのままに龍の腹部へ肘を叩き込んだ。


この一撃は、龍のパワー+猛風のパワーをあわせた一撃。だが龍はそれも耐えきり、両腕を振り上げると、ハンマーナックルの要領で、振り下ろしてきた。


「ぬぅ!」


それを猛風は受け止めるが、受け流しきれない程のパワーに、ガードを崩され、両肩に炸裂した攻撃に怯む。更に、


「オォオオオオオオ!」


龍は、続いて右拳を固く握り直し、腕を振り上げた。アッパーというよりは、馬鹿力に物を言わせた腕の振り上げ攻撃。だがそれは猛風の顎を的確に当て、


「ぬぐぁ!」


そのままに上空に打ち上げると、そのまま地面に転がるのだった。

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