過去
龍は父親とは殆ど会話をしたことがない。と言うか、父は家にいない日の方が多かった。更に言うと、その相手を父親と認識したのも、かなり後になってからだ。
記憶を探っても、月に1、2回程家に寄り、自分に暴力を振る男。そんな記憶しかない。
会話をしたことはないし、そもそも暴力を振る時以外、こちらを見ることもない。
後から知ったのだが、所謂母親はこの男の妾。要は不倫相手だ。
その為母も自分を見たことはない。今思い返しても、なぜ産んだのか分からないくらいで、父親に暴力を振るわれてても気にしないし、食べ物と言えばスナック菓子や生の野菜何かを渡されて食べていた。土がついてたり、そもそも生で食べてたので固かったり腹を下した記憶もある。そのせいで今でも野菜は苦手になってしまい、割りと大きくなるまで箸を使うことすらできなかった。
そして龍は学校にも行っておらず、義務教育すら受けてない。これもあとで判明したのだが、そもそも龍は出生届が出されておらず、法律上は存在しない人間だったせいで、本来であれば時期が来れば送られるはずの知らせがなかったからだ。まぁあっても、通わせてたとは思えない。
母親は龍を外に出さなかったし、龍も当時は一日中ずっと部屋の隅で座っていた。今のような姿からは考えられないが、骨と皮だけの体で朝も夜もなく過ごしていた。何せ外に出ると言う発想がなかったからだ。ずっと部屋でなにも考えず過ごしていた龍は、部屋の隅がほぼ全て。だからそこからでる発想がなかった。
だがそんなある日、何時ものようにどこかへ消えた母が、帰ってこなくなった。
母はほぼ毎日何処かに消えていた。と言うより出掛けていたが正しいのだが、それでも 毎日帰ってきていた。だが帰ってこなくなり、龍は何も出来なくなった。
龍は今まで母親に与えられる食べ物(と言うにはあんまりな物ばかりだが)を食べてきたため、食べ物をどうすれば手に入れる事が出来るのか分からず、ただずっと待っていた。
そんな中、父親がフラりとやって来て、
「お前の母親は死んだ。この建物はお前にやる。あとは勝手に生きろ。金は毎月この部屋の郵便受けにいれておく」
とだけ言い残して、同時に父親もパッタリ来なくなり(当時計算すると、恐らく12才位の事だ)、龍は一人で生きていくことになった。そして龍は、とにかく腹が空くため、家を捜索し始めた。実際教育を一切受けてこなかった龍は、父親の言葉を理解できていなかったが、それでももう自分で食料を探さねば生きていけないことを本能で感じ、座ってばかりいられないのを理解していた。
だが食料は家中探しても殆どなく、数少ないお菓子や、腐りかけ虫が集った野菜を食べ、そして挙げ句家に出てくる虫を食って生き延びた。
当然体調を崩すが、それでも食って生き延びた。そう思うと、今も野菜が苦手なのはその光景が脳裏に浮かぶからで、スナック菓子が平気なのはお腹を壊さない食料だったかもしれない。
しかしそんな生活はある理由ですぐ終わりを迎えるのだが、それはまた別の話。
◆
「リュー!」
「んぁ!?」
虎白の耳元での大声に、龍は間抜けな声を出してしまった。
ずいぶん懐かしい記憶を掘り起こしてしまったものだ。何て思っていると、
「食べないの?」
「ん?あぁ。全部食っていいよ」
虎白は龍の言葉にニンマリと笑い、たこ焼きを頬張る。
現在龍と虎白は、たこ焼き屋でたこ焼きを3パック程買い、近くのベンチに座りながら、そのベンチの近くに設置してある自販機で買ったお茶を片手に休憩していた。
(こりゃ5パックは買っても良かったかもな)
等と虎白の食いっぷりを見てると思ってしまう。
本当にこの細い体のどこに入っていくのか不思議なほどだ。もしかしたら全部胸に行くのかもしれない。人体の神秘である。
「リュー?どうしたの?食べたくなった?じゃあアーン」
「あぁ?」
虎白を見てたら何を勘違いしたのか、爪楊枝に刺してこちらに差し出してきた。
正直たこ焼きは好きじゃない。虎白に買っといてなんだが、あの紅生姜の風味とかドロッとした感触が余り好きじゃない。いやホント好きな人には申し訳ないのだが。
しかし幼少期の育ちかたのせいで、偏食が激しく、火月からよく怒られる龍だが、態々こうして差し出してくるのを断るほど野暮じゃない。
そう思いながら龍は口を開き、
「あむ……あつ!」
「アハハ!」
龍は口の中に噴出したたこ焼きの中身の熱さにひっくり返るところだった。しかもそれを見て虎白は笑う。
「笑うことないだろ!」
「だってリュー。鉄パイプで殴られても平気そうだったよ?」
あれとは全然違うだろ。と突っ込むと、
「ん?」
龍達が座っているベンチに向かって、複数人の男達がこちらをジッと見ながら近づいてくる。
「友好的な連中には見えねぇな」
とだけ言って、龍は立ち上がると虎白の手を引き、
「少し移動するぞ」
「え?でもまだ食べてる……」
「歩きながらでも食える」
そう龍は言い、虎白の手を引いて歌舞伎町の裏路地に飛び込んだ。
「━━っ!」
何やら後ろで騒いでいるが、気にせず龍は裏路地を進む。
「あのバカども。マジでこの昼間の歌舞伎町。しかも表の方でも気にせずやる気だったな」
「え?誰か来てたの?」
気付いてなかったらしい虎白に、龍はうなずきつつ、
「アイツら拳銃持ってやがった。拳銃持ってるやつは、歩き方が独特になるからよく見れば分かりやすいんだ」
と言うと、龍は虎白を連れて裏路地を進み、少し開けて広場みたいになった、行き止まりにたどり着く。
「え!?リュー!ここ行き止まりだよ!」
「良いんだよ」
龍がそう答えると同時に、バタバタと走ってきた奴等が来た。
「
多分あの包帯をつけてる男は、先日にも観た気がするので、虎白と始めて会ったときの奴だ。一人しかいないし、動ける男だけ案内役代わりに呼んだのだろう。
等と分析してたら、他の奴等の目の色が変わり、虎白を一瞥した後こちらに殺気を向けてきた。
「リュー……」
「安心しろ。すぐ片付けてまた日本の美味しい物を教えてやるよ」
実際超がつく程偏食の龍は、そんなに美味しいものに詳しくないのだが、それでも安心させるためにそう言って、虎白を後ろに下がらせる。
「さぁて、どうすっかなぁ」
「
すると虎白はなにかを叫んだ。だが男の一人が首を横に振り、
「
「えぇと、何て言ってるんだ?」
ニュアンス的に、止める虎白と止まらないアイツって感じだと思うのだが、如何せん中国語はわからない。
勉強した方がいいのかなぁ。何て思った次の瞬間。男の一人がこちらにかけて来て、飛び蹴りを放ってきた。
「いいや。またあとで考えよう」
しかし龍は呟きながら、相手の足を片手で掴むと、そのままぶん回して壁に投げ、そのまま勢いよく頭から壁に激突し、頭から血を流しながら地面に落ちる。
『っ!』
それを合図に、男達がこちらに向かって駆け出し、次々と襲いかかってくる。
それに対して龍は拳をしっかり握り、大きく振りかぶって一番前の男を殴ろうとするが、それを避けられ相手の男の拳が逆に龍の脇腹に刺さる。しかし、
「オラァ!」
「っ!」
龍は殴られてるのも気にせず反対側の拳を振るい、素人フックで相手の顔面を横からぶん殴る。それにより相手は横にグルン回転して地面に転がった。
そこに別の奴が駆け込み、龍の顔面に向けてパンチ。それを、
「ふん!」
龍は頭突きで迎撃し、ゴキャっと相手の手の骨が砕けた感覚を感じつつ、怯んだ相手の顎目掛けて足を振り上げ、相手は後ろにひっくり返る。
「ラァ!」
そしてひっくり返った相手を踏みつけながら、今度は龍が走りだし、前に居た相手を渾身の力でぶん殴る。相手は2メートルは吹っ飛び、横から来た別の奴は、後ろ回し蹴りで迎撃し、怯ませた所に手を伸ばして首を掴み、そのまま片手で持ち上げると、力任せにそれを振り回し、周りの敵とぶつけてなぎ倒していき、適当な所で放り捨てて別の敵の首を掴んで同じようにぶん回して倒していき、地面に叩きつけて捨てる。
すると、
「
と包帯を巻いた男は、拳銃を抜いてこちらに銃口を向ける。下手に横に動くと、後ろの虎白に当たってしまう。
そう判断した龍は、両腕を顔の前で交差させて一気に走り出す。
「
パン!っと空気を弾く音と共に何かが龍の腹部に辺り、鋭い痛みと熱が拡がるが、龍は気にせず強引に突っ込む。
「~っ!」
声にならない悲鳴をあげ、男は続けて何発も撃ち、龍の体から血が吹き出るが、龍は歯を食い縛りつつ、そのまま男に体当たりを決め、体勢を崩した所を、龍はプロレスのエア・プレーン・スピンの要領で持ち上げ、倒れるようにして、相手の脳天をコンクリートの地面に叩き付けた。
「ふぅ……」
白目を剥いて気絶した相手を地面に捨て、龍は虎白の方を見ると、
「リュー!大丈夫!?」
虎白が慌てて駆け寄ってくるが、
「ヘーキヘーキ。あんな豆鉄砲みたいな口径の粗悪品銃じゃ、頭撃ち抜かれないか限り死にやしないよ」
と指で銃弾を抉り取りながら龍は言い、
「あとは絆創膏でも張っとけば良いだろ」
どう考えても、それで済む怪我ではないのだが、これくらいよくある町だ。なので絆創膏は持ち歩いてるので、それを体の撃たれたところに貼っておく。
「しかし、銃まで持ってくるとはかなり本気だな。お前何かしたんじゃないか?」
「んー?記憶にない」
そもそもなんで追っかけてきたんだと聞けば良いじゃないか。と思ったのだが、
「銃声はこっち聞こえたみたいだ!」
「行くぞ!」
複数人の足音が、こっちに近づいてくる。
「まずい警察か!?」
と龍は虎白の手を引き、慌てて壁に駆け寄ると虎白をも立ち上げて、壁を乗り越えさせて自分も壁をよじ登って、反対側に着地。それと同時に向こうから何やら話し声がしてくるため、ギリギリだったらしい。
「よし、そっとここを離れるぞ」
「うん」
シーっと人差し指を唇に当てて龍が言うと、虎白も同じポーズをして頷き、二人は静かにその場を後にするのだった。
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