召喚されし、ヤンキーJKちゃん

三八式物書機

第1話 ヤンキー召喚

 丸山蘭子

 関東一円に敵なしと呼ばれたヤンキー。

 男ですら、道を譲るぐらいに強かった。

 腰まで垂らした金髪。化粧はしてないが、確かに細面の美貌であり、睨んだ表情も美しいとさえ言われる。だが、狂犬とさえ陰で言われる彼女に近付ける者など誰も居なかった。

 学校指定のセーラー服を改造して、スカートの丈を踝まで伸ばし、襟は名古屋襟風にした。常に学生鞄には鉄板を入れ、重さ5キロの鈍器となっている。

 都内の高校に通っているが、教師も怯えて、彼女に生徒指導は出来なかった。

 百獣の王のような存在である彼女だが、仲間を作ろうとはしなかった。無論、彼女の力に惹かれて、多くのヤンキーが集まっては来るが、彼女自身は一人で居る事を望んでいた。

 

 校舎裏で一人、煙草を吸っていると周囲が突然、眩しく輝き出した。

 「んだ?これ・・・。どうなってやがる?」

 そんな不思議な状況でも彼女は冷静であった。何があっても何とか出来るだろうという自信の表れである。しかしながら、今、起きている現象は彼女がどうやっても何ともならない状況であった。

 それはこの世界には無い魔法だからだ。

 やがて、景色は真っ白な光に包まれた。


 次に目の前に景色が現れた時、そこは薄暗い建物の中だった。

 「んだよ・・・ここは・・・拉致られたのか?」

 蘭子は周囲を見渡した。そこには怪しげなフードを被った男女が立って居る。

 「せ、成功した?」

 一人の女が驚いたように声を上げる。

 「てめぇが俺をここに拉致ったのか?」

 蘭子はそっちを睨んだ。

 「い、いえ・・・いや、そうです」

 女は怯えながら肯定する。一瞬だった。彼女の顔面に蘭子のドロップキックが決まったのは。彼女は数メートルを吹き飛ばされ、石造りの壁に激突した。

 「っざけるなよ。こんな所にいきなり拉致りやがって・・・どこの奴だよ?」

 蘭子は別の男の襟首を掴み、揺さぶりながら、吐かせる。

 「こ、こはセフィーロ王国です。今、魔物に襲われ、危機的状況なのです。勇者様なら、どうか・・・お助けください」

 彼は苦しみながらそう答える。

 「ゆ、勇者様。突然、召喚されて、混乱されているのは解ります。どうか、お話をお聞きください」

 他の者達も突然、蘭子の周りに跪き、頭を下げる。

 「誰が勇者だ。この野郎」

 蘭子は吊り上げていた男を適当に放ち、周囲を取り囲む連中を睨んだ。

 「我らは魔物を操り、人間を襲う魔王によって、絶滅の危機に瀕しております。すでに王都であるこのザイラックにも魔物が攻めてきているのです。街は破壊され、間もなく、この王城にも攻め入ってくるでしょう」

 泣きながら男が語る。

 「うるせぇよ。何言ってやがるんだ?」

 だが、それを理解が出来ない蘭子は男を蹴り上げた。

 「うううっ、勇者様では無いのですか?」

 その場に居る人々は悲嘆した。召喚したはずの人物は勇者では無かった。

 絶望しか無かったのである。

 「人を拉致しておいて、変な事を言ってんじゃねぇぞ?」

 蘭子は彼らを無視して、扉へと向かう。そして、扉を蹴破った。

 そこを守っている警備の兵は突然、扉がけ破られて、驚く。

 「だ、誰だ?」

 彼らは突然、姿を現した少女に驚き、反射的に手にした槍を構えようとした。

 「糞がっ」

 それに反射的に応じる蘭子。手にした鉄板入りの学生鞄を振るい、1人の兵士の頭を激しく叩き、吹き飛ばした。

 「な、なんだぁ?」

 もう一人の兵士は驚く余り、動きが固まる。それを察した蘭子は振り回した学生鞄の勢いで後ろ回し蹴りを彼に決めた。彼は軽々と吹き飛び、狭い通路の壁に激突して倒れた。

 「何だ。ここは?変なコスプレをしやがって、魔物がどうとか・・・ラリってんのか?変なクスリを打たれてねぇだろうな?」

 蘭子は裾を捲り、腕を見た。

 「まぁ、とにかく、とっとと脱出だな」

 駆け足でよく解らない城内を駆け抜けた。

 

 きゃあああ!

 女の悲鳴が聞こえた。蘭子は面倒だなと思いつつもこの迷路みたいな城から抜けるには人の居る場所に向かうべきだと思い、そちらへと駆ける。

 開けた場所に出た。そこは城の中庭なのだろう。綺麗な庭園があった。しかし、そこに奇妙な形をした生き物たちがワサワサと動き回り、人々を殺しまわっていた。槍や弓を持つ兵士は懸命に戦うが、次々と倒れる。魔法使いも炎や水を化け物にぶつけるも倒すまでに至らない。

 「なんじゃこりゃ?」

 蘭子は唖然とした。それは彼女が知る世界では無かった。

 「おいおい・・・夢でも見てるのかよ?」

 呆然と立ち尽くす蘭子に身の丈、3メートルはあるようなゴリラのような亜人が棍棒を振り上げ、襲い掛かる。

 「んだよ?てめぇ、やんのか?」

 蘭子は亜人を見上げながらガンを飛ばす。

 棍棒を振り上げた亜人は動きを止めた。

 「んだよ?ビビったのかよ?」

 蘭子は亜人の剥き出しの脛を思いっきり蹴る。途端に亜人は悲鳴を上げて倒れた。

 「だせぇな。図体がデカい割りにあっさり倒れやがってよぉ」

 蘭子は倒れた亜人を更に足蹴にした。その度に亜人は悲痛な悲鳴を上げる。それを見た他の魔物たちが集まって来る。だが、蘭子は彼らに恐れる事なく、睨みつけた。

 「おいおい。デカさで足りなくて、今度は数で来んのか?やったるぞぉ?」

 その迫力に魔物たちは本能的に恐怖を感じ、後退る。

 「はぁ?向かってきておいて、逃げるんじゃねぇよ。やるんだろがぁ?」

 蘭子はのしのしと彼らに歩み寄る。魔物たちはそれに合わせて後退る。

 「てめぇら・・・舐めてるんじゃねぇぞ?」

 怒りに任せて、手にした学生鞄をぶん投げる。鉄板入りの重たい学生鞄はクルクルと飛び、空を飛んでいた巨大な鳥の魔物の喉にぶち当たる。一瞬で鳥は気絶して、空から落ちた。魔物たちはその光景を見て、怯えた。

 数匹の魔物が脱兎の如く逃げ出す。

 「逃げるんじゃねぇと言ってるだろがぁ!」

 蘭子は駆け出す。目の前に居た巨大な牙を持ったライオンのような魔物の鼻っ面を思いっきり殴る。ライオンは抵抗も出来ずに痛みに崩れた。

 「てめぇらはガタイだけかぁ!」

 蘭子は更に横っ腹に蹴りを入れる。ライオンは苦悶の悲鳴を上げて、石畳の床に転がった。

 「なんだぁ。これはぁ?」

 蘭子は棍棒を披露。それは金属製でトゲトゲが付いた物だった。

 「釘バットみたいでいいじゃねぇか」

 得物を持った蘭子は笑みを浮かべる。それに殺意を感じた魔物達は震え上がり、全てが逃げ出す。

 「待てや。この糞ガキどもがぁ」

 蘭子は彼等を追い掛ける。足の遅い短足なカバみたいな魔物が蘭子の棍棒の餌食になる。彼女はカバをボコボコに殴りまくる。数分でカバは動きを止めた。

 「んだよ。もう死んだのかよ。へへへ。よくわかねえけど、人間じゃねぇから、死んでも構わねぇよな」

 血だるまになったカバに蹴りを入れながら蘭子は笑う。

 その光景に人々は安堵すべきか恐怖すべきかを悩んだ。

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