2020/12/27 魔女、刺客にて
お題:【刀】をテーマにした小説を1時間で完成させる。
やたら黒を基調としたドレス。
異様に柄が長く、清掃には不向きな箒。
足りない身長を補うように伸びている三角帽子。
魔女は恰好ですぐに分かる。
来訪してきた年端もいかない少女の恰好を見て、辺境の刀剣博物館の学芸員の中年女性はそう思った。
「この、翼の折れた芋虫みたいなデカ物は何?」魔女が言った。
「これは、異世界から取り寄せた機械で、現地の言葉で《剣の魚》と呼ばれていたわ」
「ふーん。こいつ、泳ぐんだ」少女は機械を間近で見上げる。
「いいえ、これは空を飛ぶための機械みたいよ」
「ああ、なるほど。確かに抵抗が少なそうだから飛ぶ方が向いてるかも」
「この書物は何?」
「これは、異世界の文化について書かれた書物で、名前を《フラワー・アンド・ソォド》と呼ぶそうです」
「何も刀剣っぽさがないけど?」
それには博物館に勤める学芸員も苦笑いするしかなかったようだ。
「なんだこれは。椅子?」
少女が興味を示したのは豪華絢爛な装飾が施された椅子だった。
「どうぞ。座ってみてください」
勧められるがままに少女がその細い腰を椅子に落とす。腰掛けが柔らかい素材なので、少しばかり沈み込んだ。
「ふむ。悪くない…………おおっ?」
少女が椅子に座ったまま上を向くと、直上の天上に空いた空洞から刃物が吊されているのが見えた。
「おっかないなあ」
少女が椅子を離れると、天上に吊られた刃物が落ちてくる。
「わっ!」
刃物は背もたれの途中の位置で止まった。そこで止まるように糸の長さで調整されているようだ。
「おっかないなあ」
「これは玉座に着いた者に、その責務を
「私、別に座らなくても良かったんじゃないの」
「これは《流星剣》と呼ばれるものでして、隕石を加工して出来た刀になります。外宇宙からやってきた隕石にはこの世の理とは別の法則がはたらいているのか、この流星剣の近傍では魔法が無力化されてしまいます」
「隕石云々は耳タコだけど。それを加工したものは初めて見るよ。へぇ、これが……」
少女が展示ケースから少し離れると、手を翳して何かブツブツと唱えている。彼女の手から拳大ほどの炎が現れてケースに向けて飛んでいく。しかし、ケースを目前にして炎は何もなかったかのように掻き消えてしまった。
他にも、若い魔女は学芸員の女性に連れられた、館内を巡って様々なものを見た。医者が人間の腹を割くという刃物、芸術家が彫刻を彫るための刃物、古今東西の争いに使われてきた凶器。いずれも刃物ばかりだった。
それはそうだろう。刀剣博物館なのだから。
「この鞍と車輪のついたのは?」
「これも、異世界から仕入れたもので、名前もそのまま《刀》らしいわ。地上を走る」
動力が分からないな、と少女は思った。
「ねえ、ここの館長は、蒐集品を集めてここを開いているんだよね」
「ええ、そうでございます。我々どもの館長は若いときに方々を旅しておりまして、その時に入手した珍品を自分の倉に収めているだけなのは惜しいと、資材を売って、この博物館を構えました」
「ふーん。案内ありがとう。もういいよ」
そう言って魔女の少女は帰っていった。
深夜、刀剣博物館に侵入する者が一人、否三角帽子を被った少女が一人。
盗みに入るために侵入したのに、服装すらそのままというのはあまりにも大胆不敵だった。
目的の展示品がある廊下に出る。
「お前が探しているのは、これか?」
幅の狭い廊下を大きな声が反響する。先には老いた男が立っていた。
男の隣には昼間観た流星剣が入った展示ケースがある。
「最近、妙な窃盗団が出しゃばっていると聞いたが、まさかこんな田舎に来るとはな」
「団? 団じゃないよ。私一人だもん。《刀狩り》さん」
少女は手を前に出して呪文を唱えると、目に見えない空気の塊が男に向けて放たれる。
男が展示ケースに手を突っみ、硝子を破って中から流星剣を取りだした。剥き身の刀身を振うと、少女が放った魔法が掻き消される。
「貴方のことは知っているわ。東西に渡って、喧嘩を吹っ掛けては武器を奪って回っていた手練れ……」
付いた渾名が《刀狩り》だった。
「知っていてなんとする?」
「お手合わせ願おう!!!!」
幅も狭ければ、天上も低い廊下だった。
男が駆ければすぐさま少女は間合いに入る。
如何に魔法使いといえども、接近されてしまえば、手数で圧倒できる。
数々の死線を潜り抜けてきた男には、若い少女の肉に振った刃が入り込んでいく未来が見えた。
少女が男の突撃をしゃがみ込むように抜け、箒の柄から抜刀した仕込み刀を振って太腿を攻撃した。
体勢を崩した男が廊下に滑り、転がっていく。
もはや立てなくなった男の眼前で、少女は流星剣を拾い上げた。
「あの世でお師匠さんに詫びて来な」
そのまま流星剣を胴に差し込まれ、男は絶命した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます