精神修養
㋑CH4
2020/12/13 魔導師の闘い
詰め所の方で並々ならない騒音を聞きつけた私とサルマン女史は、詰め所の上空に塵埃と思われる煙が立っているのを目撃した。
足早に詰め所に戻ると、叫び声が聞こえる。
「アーサー! そっちに逃げたぞ!」
頭より先に身体が動き、
正面を全速力で駆け抜けてくるのは、黒いローブを纏った小柄な少女。
「アーサー、私がやる!」サルマンが前に立ち身構える。
ストローから放たれた衝撃術式が正面の少女に飛来し、勢い余った彼女がその攻撃をモロに受け吹き飛ぶ。
それだけでもかなりのダメージの筈だが、彼女はすぐさま立ち上がった。どうやら薬で強化しているようだ。
サルマンと少女は互いに間合いを計っているのかその場を動くばかりで距離を詰めようとしない。
今のうちに周囲状況を確認した。詰め所の入り口が吹き飛ばされており、入り口からこちらまでの石橋上に下級魔導師が数名倒れている。おそらく少女を取り押さえようとして返り討ちにあったのだろう。裂傷や火傷のような外傷は特に見られず、衝撃術式を喰らったと推測する。
魔導師どうしの戦闘は軍隊のそれとは大きく異なり、かなり個人戦闘になりがちだ。魔術そのものに得手不得手がある傾向から集団戦闘に不向きなことがその所以である。少女を制圧するためにも情報が重要になってくる。
周囲状況からまだ少女の手の内を読めるこちらが有利だ。数的有利も得ている。
少女は足下に転がる下級魔導師のストローを拾った。
「何?」歩を止めたサルマンの表情が険しくなる。
一般に、魔導師が使用できるストローは一本である。なぜならば、ストローは魔力の伝達しやすい道具である反面制御が難しい。気を抜くと止めどなく流出して体調に異常をきたす可能性がある。二つ以上の魔術を同時に行使することは思考のリソースを大幅に喰らい不履行が起こる場合もある。
今の少女、言うなれば両手で同時に別々の言語の文字を書こうとしているような状態である。
「どういうつもりだか知らないが、無謀なことはしないほうが身のためだぞ」
少女はサルマンに向き合うと、ストローを持ったままの右手で挑発する。
「クソ餓鬼が……」
サルマンが遅効性の衝撃術式を展開し、少女に向かい突進する。時間差攻撃の手数で圧倒するつもりだ。サルマン女史ほどの腕なら飛来する攻撃の数々を凌ぐこともできるが、下級魔導師の練度では速さが足りないだろう。
しかし、少女は距離を取るでもなく、回避機動を取るでもなく、弾丸のようにサルマンに突進する。
その距離は瞬く間に縮まり、衝撃術式が飛来し始めた段階で二人は肉薄していた。
少女の左手に握られたストローが逆手に持たれているのが見えた。そしてそこから刃のように迸る魔力の奔流も。
「サルマン!」
勿論それはサルマン女史にも見えていたが、勢いが付きすぎた彼女は回避を諦め、正面に防御術式を展開し、そのまま押し潰そうと試みた。
少女はサルマンの右脇を潜り抜けていった。遅れて衝撃術式が襲い掛かるが、これを両手のストローを振り回して弾き飛ばす。
「ミラーリングか?」サルマンが振り向きざまに呟いた。
彼女は右の腹を押さえている。紅い染みがローブを汚している。
サルマンは咄嗟に防御したが、少女の裂傷術式を纏ったストローがそれを切り裂いていった。もし彼女が防御を取らずに回避を選んでいたら、致命傷を受けていたかもしれない。
「まだ動ける!」唾を飛ばしながら、再び少女との間合いを詰める。
今度は何の術も展開せずに、ほとんど無謀な突進だ。
サルマンを援護すべく動き出した。今の位置なら少女を挟み撃ちにできる。
手負いの彼女よりも私の方がいくらか速く動ける。
衝撃術式をいくらか飛ばすと、彼女はそれを物ともせずに私の方に突っ込んでくる。おそらく衝撃防御を張っているが、ダメージを無視できているのはなんらかの薬の作用だ。
少女の両手のストローでは裂傷術式が荒ぶる炎のように勢いを増していた。
「ぶっ殺す!」
大声で叫ぶサルマンが投げ飛ばしてきた裂傷術式を纏ったストローが少女の脇腹を貫いたがそれでも彼女は止まらない。
「シャアアアアアアア!」
獣のように私に飛びかかる彼女を前に私は可能な限りの防御術式と硬化術式を付与した腕で受け止める。
少女のストローは私の腕に阻まれたが、彼女がもう一本のストローを突き立てると、防御が破れそうになる。
「ならばッ!」
私は空いていた手でそのまま少女を後ろから抱きつけ、次の術式を展開した。
視界が一瞬にしてホワイトアウトした。
肉薄した私と少女の間で、文字通り炸裂した閃光音響術式は二人の目と焼き耳を壊した。
サルマンはアーサーが腕で抱き寄せるように捕縛している少女の元へ歩を進める。
アーサーはピクリとも動かないが、少女はガバっと起き上がった。
幸い彼女の目はアーサーの狙い通り潰れていたが、少女はまだ動けるようであった。
「シャアアアアアア!」目と耳をやられた筈の少女が依然として吠えたける。
「うっせ!」
サルマンは少女の顎を渾身の力で殴りつけて気絶させた。
文字数:2042(本文のみ)
時間:1時間
お題:下記の一連の流れを考慮して一時間でバトルシーンを書く。
1)戦闘開始
2)具体的な行動
・その行動を選んだ理由もしくは意図
・その理屈を利用した身近な例
・想定する勝利までの流れ
・その行動がどれだけ凄いかの説明
3)その結果実際に起きた現象
・成功/失敗したならどうなっていたか
・なぜそういう結果になったか
4)次の行動へ
2)に戻る
5)決着
感想:1時間で2k字書けたのが素直に嬉しい。
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