DEATH BLACK

佐野太郎

プロローグ「起源」


 ………昔々、七人の少女がとある石を求め、争いました。

 

 彼女らは、裏切り、裏切られ、傷つき、悲しみ、絶望しながらも争いを集結させました。

 勝者となった一人の少女がこう言いました。

 私たちが争ってしまったのは石のせいだ、と。この石の存在を忘れさせ、当たり前の日常を返してほしい、と。そして彼女たちは、いいえ、この争いに巻き込まれた全ての者たちは元凶の石の存在を、争いを忘れてしまったのです。


『でも覚えているよ、僕はね。……おおっと、驚かせちゃったかな?そろそろ自己紹介しなきゃね。僕は≪神の代理人かみのだいりにん≫!あ、いや「人」じゃないや。≪神の代理者かみのだいりのもの≫!ツキって呼んでほしいな!』



 少女の脳内では話しかけてくる。彼の姿は今日も見えない。でも声色的に男だということは分かる。これは夢だ。断言してもいい。神の代理かなんだか知らないが、人の夢に何度も現れるのはやめてほしい。


『あ、朝が来るよ、今日も一日頑張ってね』


 途切れ途切れに携帯のバイブ音がする。意識がはっきりとしていく内にその音は大きくなる。少女はアラームが苦手なのだ。いきなり耳元近くで音を立てられるのは不快だ。とても心臓に悪い。

 まぁ、夢で起こされるのも不快なのだが。


「はぁ~~~~~」とわざとらしく大きなため息をついて少女は布団から出た。

 こんな奇妙な、妄想的な、馬鹿馬鹿しい夢を見るようになったのはいつからだったか。

 布団の中にあったぬくもりの恋しさを誤魔化すように、少女は寝起きの身体を伸ばし洗面所へと向かう。未だに寝ぼけて思考がまとまらない自分に、手で冷水をすくい顔を洗った。鏡に映る自分は、腰の長さにまで伸びた茶髪、頭角に在する一本のアホ毛が印象に残る。


――そうだ、あんな夢を見始めたのは変な死体が見つかってからだ。


 脳に電撃が走ったような、もやもやと周りにあった霧が刹那の間に消え去ってしまったような頭の冴えようだ。

 一年前、変死体が見つかり世間を騒がせた。それは被害者が死んでいるのにもかかわらず腐らない死体だったからである。SNSでは「人間業じゃない」だの「死神の仕業」だの騒がれた。

 とあるSNS利用者が、「犯人は普通の死さえ与えない、これは、どす黒く悪に染まったことだ。許されざることだ!死者さえも冒涜している。犯人は黒い死を与える者だ!」と呟き「≪DEATH BLACKデスブラック≫」と呼んだ。その投稿は何故かすぐに消されてしまって今はもう見ることはできない。

 その異名が今日こんにちまで浸透している。

 最初は、世間は何を言っているんだと呆れたものだ。しかし、その事件が起きて間もなくすると、いきなり彼が夢の中に現れた。

 

 これはもし、あくまで可能性の話なのだが、一年間話しかけてきた彼が本当に神の代理だとしたら……死を与える神様、つまり死神がいたって別に変ではないことにならないだろうか。


「ははは、まだ寝ぼけてるな」と自分で考えたことに鼻で笑い、着替えを始めた。

 今日は幼馴染と出かける約束があるんだ。彼のことなんて考えなくていいさ。

一つだけ腑に落ちないことを正直に言うなら、どうして今日やっと彼は自己紹介をしてきたのだろう。

 

 彼は、一年間自分の正体を誤魔化して語ろうとしなかったのに。


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