第47節
「あ、おはようエリカ」
やはりというか、やっぱりというか。そこには、女子に囲まれまくってるカナデくんがいた。カナデくんはあたしと目が合うと、嬉しそうに挨拶してくる。
うんうん。挨拶は大事だねカナデくん。でもね、気付いてほしいんだ。かまって欲しい女子たちが、きみのさわやか~な挨拶で、一気に敵意をむき出しにしたよ。なぜかあたしにびっしばっしくるよ。うんうん。気付いてないよね。泣きたい。
「お、おぉ……おはよう、カナデくん……」
うぉぉぉーっ! 話しかけないでくれー! 今だけは頼むぅぅうあたしの穏やかな高校生活がー!
あたしは必死に目線をそらしたが、しかしカナデくんはわざわざ立ち上がってこちらに来ると、目が潰れそうなほど素敵な笑顔を向けた。
「来るの遅かったね、どうしたの?」
「いやぁ、ちょっと……黒猫が十回ほど目の前を通ったから、その度に進路変更してて……」
「そうなんだ。……その人は?」
あたしのめちゃくちゃな言い訳にも特にツッコむ様子もなく、カナデくんはハルオくんに目線を移した。
「はじめまして、桜川 春雄っていいます。きみ、新入生代表の挨拶してた酒々井くんだよね」
ハルオくんはそう言って、スマートにカナデくんと握手する。
おぉぉ、中学生最強眼鏡くんはメンタルもなかなかにストロングなのだな……うらやましい……見た目モブっぽいから、あたしと同じ陰のものだと信じていたのに……
だがしかし、これで少しは視線がそれた。どうも入学式のときから、あたしに対しての印象が悪いお嬢さん方が何人かいらっしゃるらしい。しかも、今日は熱烈に強烈な感じがするけど……なんで? 何も悪いことしてないよ……?
「朝、校門のところで待ってたんだけどさ。全然来ないから先に教室来ちゃったよ」
「あは、は……別に待ってなくても大丈夫だよ?」
「そんな寂しいこと言うなよ。おれはみんなと登校したかったんだから」
くすっ、と笑うカナデくんはまさに日焼けの王子様。爽やかなスポーツマン。絵になるなぁ……
嬉しいことを言ってくれるけど、そろそろそのニコニコ笑顔をそらしてくれないと、明日あたしは刺されるかもしれないんだぞ。注意してくれ、イケメンよ。
「へえ、カナデくんはエリカさんたちと仲がいいんですね」
女子たちの視線に男子は疎いものなのか、火に油を注ぐようなことをさらっというハルオくん。
仲がいいなんて! そんな! ただカナデくんは優しいから、それだけだよー!
口を塞げるものなら塞いでしまいたい。あたしはもう、教室に入るたび、入り口で深呼吸をするような日々は送りたくないのだ!
だが、その願いむなしく――カナデくんは、なぜかとろけるような笑顔を浮かべた。
「おれは、エリカの友達だよ」
その、不用意な一言に。
窓際に固まっている、愚連隊のような目つきの悪さであたしのみをにらみつける親衛隊たちの殺意が、ぶわっ! と高まるのを肌で感じた。
これは、まずい。まずいですよ、カナデさん。
「あはは! 友達だなんて! あたしはゴーヤだと思って! ね!」
もしくはそこら辺の道ばたに生えてる雑草と同じだから! 人畜無害だよぉ!
しかし。あたしの必死な言い訳もむなしく、カナデくんを囲んでいた数人の女生徒からさらに突き刺さるような視線が降り注ぐ。
「は? 何あれ……」
「マジちょっと空気読めてないよね」
聞こえてますぅぅぅお嬢さん方~聞こえてるよぉぉ!
ていうか、あたしに対してわざと聞かせようとしているとしか思えない。おおぉ、可憐な女子高生の身で舌打ちと腕組みはよろしくないぞ。カナデくんが背を向けてるからって、ガラ悪いぞ諸君。
「エリカちゃん……! こっちおいで」
「モモちゃん……っ!」
女子たちの視線にいち早く気付いたか、モモちゃんが手招きで隣の席を指さす。あたしは即座にそちらへ移動し、モモちゃんを挟んでカナデくんの視線から逃れ、距離をとった。
さすがはモモちゃん! やはり持つべきものはモモちゃん!!
「ありがとぅ~っ! マジで心折れると思った」
「あれはヤバイね、カナデくん親衛隊ってやつ? 新学期早々面倒なのに目付けられたかもね……」
こそこそとモモちゃんとささやき合うあたし。
「でも、なんであたしばっかり……?」
「それは、もちろん。おととい私がエリカちゃんのことめちゃくちゃ可愛くしちゃったから、ようやくあのザ……いいえ、女子たちもようやくエリカちゃんの魅力に気付いたのよ」
ザコって言おうとした……? 今……
モモちゃんの不用意な発源はスルーとして。モモちゃんの話を信じるとするならば、モモちゃんのビフォーアフター大改造によって、あたしが目立つようになってしまったってこと?
「チッ、みんな遅いっつーのよね、こんな女神他にいないのに。でも、まずったわね。エリカちゃんの可愛さを思い知らせてやるつもりが、余計なものまで釣れちゃったわ」
「余計なもの?」
モモちゃんが何を指しているかは分からないけど、彼女の視線は憂鬱そうにカナデくんの方へ向けられていた。
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