第37節
「うん、今行くね」
洋服の畑を突き進み、やっとモモちゃんと合流するあたし。モモちゃんはすかさずあたしの手を取ると、奥へと連れて行ってくれた。
「ユウカママとお話してたの~? おもしろい叔母さんでしょ~」
いろいろとぶっ飛んでて面白いよね! とモモちゃんはきゃらきゃら笑いながら言った。
「素敵な叔母さんだよ。モモちゃんのこと、すごく大切にしてるんだね」
「そうなの、すっごく素敵な人なのよ。ユウカママはバツイチで子どもがいないから、昔から可愛がってもらってたんだ」
大切な宝物を自慢するかのように、きらきらの笑顔で教えてくれるモモちゃん。手近にあったニットをひょいと手に取ると、あたしに当てて何やら考え込んでいた。
「んー。色はかわいいけど、形がいまいちね。次~!」
「モモちゃん、そういえばさ。あたしのビフォーアフターってなに?」
今日のテーマが不安すぎる名称で、思わずモモちゃんに尋ねるも。モモちゃんはにんまりといたずらっ子のように笑い、人差し指をそっと唇に添えた。
「ふふふ~。それはね、まだ秘密なのだ」
そのあとも代わる代わる様々な洋服を見ては、あーでもない、こーでもないと悩んでいる様子だった。
どうやらあたしに着させるための服を選んでるみたいだけど……
わ、このスカートかわいい。このTシャツいいなぁ。
「ん~ねぇエリカちゃん、気になってるお洋服とかある? どういう系統のお洋服が好き?」
「えっと……系統とかは全然分からないんだけど……こういうのは好き、かな」
「どういうのどういうの~!?」
すかさずモモちゃんが食いついてくるので、ぱっと目に留まったTシャツを手に取る。
「こういうのとか好きだよ」
「えっ…………エリカちゃん、それは……」
いつもニコニコだったモモちゃんの顔が、急激に曇った。
そのTシャツには鮮やかなアボカドの切り身と、目玉焼きがプリントされていた。なんのフォントかわかんないけど、「ABOCADO」のロゴがかわいい。
「こんなTシャツなんでここのお店にあるの……!? 誰が着るの……!? アボカドの英語はAvocadoなのに、なぜBになっているの…………!?」
おぉ、おしゃれリーダーもこのセンスにはついていけないようですな。
えー。だめかなー。可愛いと思うんだけど。
「やっぱり、こっちの『NIZAKANA』Tシャツのほうがいい……?」
「あぁっ! うん、可愛いけどね、可愛いけどちょっと、もうちょっと可愛いほうがエリカちゃんには似合うかな~って! ちょっと待っててー!」
そう言うとモモちゃんは全力疾走で店の奥へと突進していった。
え~。可愛いと思ったんだけどなぁ。
「お前、それ本気で可愛いと思ってるのか……?」
いつの間にか近くに来ていた霆門が、明らかにあきれたような声でぼそりとつぶやいた。それに対し、あたしは自信満々に胸をそらせる。
「とっても可愛いと思うわ! これで巫女さん仕事やりたいくらい」
「絶っっっ対やめてくれそんなもん着てきたら全力で阻止するからな!」
霆門厳しい。神社のお仕事って意外と体動かすから、こういうもののほうが楽だしシンプルでいいのになぁ~。
少しして、エリカちゃんが大量の洋服を山のように両腕で抱えて持ってきた。すぐ近くにあった更衣室にそれらを一気に置いて、ぜはぜはと肩で息をする。
「お、お待たせ……」
「だいじょぶ……? モモちゃん……」
「大丈夫、全然問題ないよエリカちゃん! ちょっとエリカちゃんに任せるといろいろ問題がありそうだから、もうとりあえず私が選んじゃうね!」
「それがいい。頼む、桃瀬」
むぅ、霆門まで。何よ、自分はいっつも着物か袴のくせにー!
モモちゃんはまず、背中がバックリと開いたデザインの白いニットワンピースを持ってきた。スカート丈は長いけれど、こ、これはちょっと……
「背中の露出、すごくない……?」
「これが今流行ってるんだよぉ。足や腕はあんまり出さないけど、背中で魅せる、みたいな!」
「ちょっっっとハードルが高いかな~……??」
「うーん、あんまり露出多めなのは苦手かぁ」
あたしの好みをいつの間にか持ってきていたメモに書くモモちゃん。なんだか本格的なスタイリストさんみたいだ。
次にモモちゃんが持ってきたのは、膝上何十センチ? というくらいのものすごい短いミニの黒いタイトスカートだった。
これ、誰が履くの!? いやまぁ洋服としてこの世に存在する限り、きっと誰かしらが着るんだろうけど、ぜったい下着見えますよねこれ!
「エリカちゃんはすっごく脚がきれいがから、こういうのも絶対似合うよ! 保証する!」
「ねぇこれぜったい見えちゃうよね!? ダメだよぉぉむりぃぃ」
「え~絶対必ず可愛いのに~」
「もうちょっと、ファッション初心者にもとっつきやすいようなものをお願いします先生ぃぃ!」
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