第45話 新武器お披露目

 そして四十七階層。自然豊かなフロアで、まるでよく管理された国立公園のようだ。のどか過ぎてしばし一行はダンジョンであることを忘れてしまう。転移魔法陣の場所ではなくてこちらでピクニックをした方が良かったのではないかとまで思ってしまう。


「さて、ここは新装備が活躍してくれるような場所だといいんだけどな」


 リクが目をらんらんと輝かせて魔物を探す。その様子を見てウィルが肩をすくめる。


「こんな深層にまで来てそんなに楽しそうにできるなんてな。全く肝が据わってやがる。ところでそれが新武器なのか?」


 全く武器に見えない見た目のただの袋にリク以外の六人が怪訝な目を向ける。興味津々なその様子に機嫌を良くしたリクは説明を始める。


「これはただの入れ物さ。収納魔法がかかってるからコンパクトに出来るんだ。じゃないと邪魔だからね」


「収納魔法がかかった袋だって?その大きさでも金貨五十枚は下らねえぞ?」


「…そうか」


―食い付くのそっちか…ていうかこれだけでそんなに高価な物なんだな。ありがとうスミス―


 リクはスミスへの感謝の気持ちを新たにし、気を取り直して武器を取り出す。その異様な武器に一同は首をかしげる。


「これが新武器なの?なんかちゃちな感じね?」


 エルのどストレートな正論に他の五人も何も言わないが同意しているようだ。袋の方が驚かれるという結果に悔しくなり、リクはすごさを理解してもらえるように説明を続ける。


「この先の球はアダマンタイトで出来ているんだ。そして二十メートルのロープにはダマスカス鋼の芯が入っている。俺が投げれば下手な攻城兵器よりよっぽど強いぞ」


 腕を組んで胸を張るリク。だがその反応はイマイチだ。本当に投げるだけかよという尤もな意見が聞こえてくる。


「くっ!そこまで言うんなら見てろよ」


 そう言ってリクは十メートルほど先にある木に向かってアダマンタイト球を投げつける。もちろん身体強化魔法をフルに使ってだ。そうでなければ本気で投げた場合に体が壊れてしまう。

 見事直撃し、木が倒れるかと思いきや倒れない。きれいに球の大きさの穴が開いている。その威力にリクを含め一同が驚愕する。


―これ間違っても味方に当てないようにしないと…でもこれだけの威力なら竜種相手にもダメージが入るかも―


「ま、まあこんな感じだ!」


 平静を保とうとするリクだが、六人も同じことを思ったようで、絶対に味方に向けるなとか振り回すんじゃないぞなど口々に言っている。そこまで信用がないかとリクは意気消沈するも、六人からすれば危険極まりない武器なので仕方がない。


 武器を試すことも出来たので、そのまま奥へと進んでいく。相変わらず一面同じような景色で方向感覚が狂いそうになるが、ルーシーがマッピングできているので問題ない。普通であればこのフロアをクリアするのはかなり骨が折れるはずだ。魔物の強さだけでなくこういったこともダンジョンの難易度の一つなのだろうとリクは思う。

 やがて鳥の鳴き声のようなものが聞こえたと思い、顔を上げると女の鳥人間がいた。ハルピュイアだ。羽を飛ばして攻撃を仕掛けてくる。しかしそこまでの速度も量も無いのでラークが全て大盾で防ぎきる。


「これでも喰らえっ!」


 リクの放った球がハルピュイアの頭部を捉えると絶命し落下してくる。十分戦闘でも使えることが確認できた。当たりさえすればこれも拳と同様、一撃必殺の威力を持つと言える。


「大したものじゃな。完全に遠距離攻撃をものにしたか」


 ルーシーが感嘆の声を漏らすが、リクは頭を振って否定する。


「ロープは確かに二十メートルあるけど、離れすぎるとコントロールがつかないだろうから完全に克服したとは言えないな。やはり転移魔法を応用した技を完成させたいところだ。それが完成すれば切り札に出来る」


 自分が次に何をすべきか考えられる者は強くなれる。リクはやるべきことを見つけると試行錯誤を繰り返して成し遂げてきた。だから今の自分があるという自負がある。次になすべきは反応強化魔法と転移魔法を利用した打撃、どちらも完成は困難を極めるが十分勝算はあるとリクは思っている。


「私も負けてられないわ。その辺の宝箱に魔法書とか入ってないかしら?」


「妾もまだまだ強くならねばな」


 リクだけではなく嫁二人も貪欲に力を求めるその姿にファングの四人は感心していた。この姿勢の違いが自分たちとの差なのだろうと。そして意識を変えれば彼らに追いつくことだって決して不可能ではないと思えた。


 このフロアにはハルピュイア以外の魔物は出ないようだった。これもやはり今まで通りなので、一行からすれば驚くことではない。恐らく次のフロアでもう一種類か二種類ほど新たな魔物が出てくるであろうことも予想できる。


 そして四十八階層に到達し転移魔法陣に魔力を記録する。


「なんだかスイスイ来れちまって拍子抜けだな?」


「何言ってるのよ。私たちだけだったら湖のフロアでは魚にやられてるかもしれないし、さっきのフロアを延々とさまよってるかもしれないわよ。リクたちがいるお陰でしょ」


 軽口を叩くウィルにアキが反論する。ここまで順調すぎるほど順調に来ているのでウィルの気持ちも分からなくはないが、きちんと状況を理解しているのはやはりパーティの司令塔であるアキだった。


「そう言えばそうだな、俺らだったらあんなだだっ広い草原なんてマッピングできねえわ。迷子になるのは目に見えてるな」


 一行は四十八階層を先へと進む。例によって前のフロアと同じような構造だが、木の数が多くなり視界が悪くなっている。先程のようにハルピュイアが出てくると狙いがつけにくそうだ。

 索敵しながら進むが、急に魔物に囲まれる。おそらく侵入者排除のために魔物を生み出したのだろう。地上からはケンタウロス。筋肉質な人間の上半身と馬の下半身を持つ魔物だ。森と言えるほど木に囲まれたこのフロアでもその機動力は損なわれることは無い。そして空からは例によってハルピュイアだ。それぞれ数は十匹を下らない。

 一見すると絶体絶命の状況ではあるが、七人に焦りの色は見られない。その気になってエルとルーシーが防御障壁を張れば攻撃を通すことが出来ないのだから。ただし防御障壁は防音障壁とは違い、内側から攻撃することもできない。つまり攻撃時には無防備になってしまうのだが、頼もしい前衛がいる彼らならば問題ない。

 まさに一方的な展開だ。ケンタウロスの機動力をもってしてもリクを凌駕することは出来ない。そして身体強化魔法にもだいぶ慣れてきたウィルも見事な動きを見せる。二人から逃れて後衛を狙ってくる者もいたが、ラークが大盾で受け止めて完封する。

 地上の憂いが無くなれば、あとはハルピュイアを倒すだけ。エル、ルーシー、アキが一匹づつ回避場所がないほどの密度で初級魔法を連発し落としていく。もはや七人にかかればボスクラスの魔物でなければ、いくら数を揃えたところで相手にはならないようになっていた。


「四人は戦闘だけなら十分ダンジョンを踏破できそうだな」


「ああ、ここまで劇的に変わる物なのかって思ったよ。アイリスの強化魔法や属性付与魔法なんて、ほとんど使ってないのにな」


「でも魔法ばかりに頼ったらダメよ。リクはわざと強化の度合いを下げて戦闘の勘を失わないようにしてるし」


「そうじゃな、そういう物は同格や格上と戦う時には大きな差になりかねん」


「成程な、一緒にいるとなんでそんなに強くなれるのか良く分かるよ。相手が弱いからって蹂躙してるだけじゃ意味がないってことか」


「そうだな。良かったら俺たちの家に来るといい。深淵の森の最奥にあるから強い魔物がわんさかいるぞ?」


「…よくそんなところで住めるな」


 えー?いい景色なのにねと言って不思議がっている三人を見て、また一つ自分たちとの差を認識する四人だった。

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