第4話 部活動紹介
「今から手話部の部活動紹介を始めます。僕は手話部の部長をしている青山和樹です。よろしくお願いします」
幽霊だった吉永さんと部員数を増やす約束をしてから時は流れ、遂に部活動紹介の日がやってきた。俺はこの日とても緊張していた。人前で話すのが苦手なうえに、この部活動紹介の質で新人部員が入って来るか否かが決まるからだ。
そこで今回の部活動紹介は、今までより真剣に質を追求した。手話と聞くと、真面目とかマイナーなイメージを持たれるのが現実だからだ。
「ではまず最初に世界に二つだけの花を歌いましょう。皆さんも真似してみてくださいね」
恵美子が言うと、ミュージックが流れ始めた。手話通訳をしていた里奈も後ろに下がり、世界に二つだけの花を手話付きで三人で歌った。
俺は周りの反応を見渡した。最初はただ見ているだけだったが、だんだんとみんなが真似し始めている。ミュージックを大きめに流していたので、終わりの方では笑顔で必死に真似をしている子もいた。まずひと段落成功したような気がする。
「次に手話部に入るといいことを紹介したいと思います。まず一つ目」
俺が言うと、ジャジャンという音が流れた。
「手話が出来る人同士で堂々とコソコソ話が出来る!」
俺が言うと周りがオーっと反応した。手話通訳が里奈から恵美子に交代した。そして里奈がマイクを持つ。
「二つ目! 外国語が喋れるような優越感に浸れる」
周りの反応がさらに大きくなった。これは今までに無い盛り上がりだ。続けて里奈が言った。
「三つ目! 手話検定を受けてさらに自分のスキルを上げることができる!」
周りがキャーとかヒューとか言い始め騒がしくなった。そして最後の締めに恵美子が言った。
「私たちはもう引退ですが、時々覗きにくるので楽しんで活動していきましょう!」
「「「ありがとうございました」」」
ありがとうの手話をしながら言うと、周りから「手話部最高」という言葉が聞こえてきた。
ステージを降りると、佐和子先生が安心したような笑みを浮かべて言った。
「よくやったわね!」
「これで新人部員絶対入りますよ!」
里奈がガッツポーズをして佐和子先生に言うと、ドッと笑いが起きた。
*
「私手話部に入って本当に良かったわ」
体育館を出た後、里奈がボソッと言った。
「なんとなく始めて俺たち本当に良かったな」
「私、本当はなんとなく始めたわけじゃないよ」
「え?」
里奈が下を向いた。里奈にはやはり手話部に入った本当の理由があったのだろう。俺はその理由が何なのかとても気になる。
「実はね……。私の妹が聾者なの」
「えっ? そうだったんだ。恵美子は知っていたの?」
里奈に妹がいたのは知っていた。だが聾者だったことは初めて知った。
「うん。ちょっと前に里奈ちゃんが教えてくれた」
「妹ともっとたくさん会話がしたい。そう思って始めたの」
里奈が言うと、恵美子が里奈をポンポンたたきながら言った。
「里奈ちゃん結構妹想いだからね」
「ちょちょっと。私そんなに優しくないわよ」
恵美子の言葉に照れる里奈。里奈は見た目がギャルでも、芯はしっかりしているんだなと俺は思った。
「俺は里奈には本当の理由があると思っていたよ。俺も里奈様を見習わないと」
「はぁバカ。あんたの0点言いふらすわよ」
「いいよ。言えるもんなら言ってみろ」
俺は内心ギクっとした。だが表向きでは強がった。俺が変顔しながら言うと恵美子が言った。
「まあまあ二人ともその辺で。それより新人部員入ってくれたらいいね」
「そうだね」
俺は手をグッとして笑った。
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