第2話 テスト返却
幽霊を見たあの日から三日がたった。全てのテストが終わり、数学のテスト返却を控えている。いつも出来ない数学が、幽霊を見た翌日だったせいか更に出来なかった。
隣を見ると、里奈は机に手を置いて寝ている。恵美子は緊張しているように見えた。
*
チャイムが鳴り、数学教師の佐和子先生が入ってきた。佐和子先生は、俺たちの数学の教師でもあり、手話部の顧問でもある。里奈がだるそうにゆっくり起きた。今日の佐和子先生は、いつも以上に機嫌が悪そうに見える。
「テスト返すわよ。名前呼ばれたら取りに来て」
いよいよテストが返ってくる。一番最初に恵美子が呼ばれた。佐和子先生は、ブツブツとテストに指を押さえながら何か言っている。顔が怖いので、良い点数では無かったのだろう。恵美子の顔は絶望一色だった。
続いて里奈が呼ばれた。里奈に渡す前に、佐和子先生はため息をついた。だが里奈は、顔色一つ変えず答案を受け取って、自分の席に戻った。
最後に俺の番が来た。佐和子先生は俺を睨みつけた。ゆっくり答案用紙に目をやると、なんと過去最低点の0点だった。
「点数をあげる余地すらなかったわよ」
佐和子先生は、ドスの効いた声で俺に言った。「前日に幽霊を見たせいで集中出来なかったんです」と言い訳したいが、そんなこと口が裂けても言えない。前から欠点を更新し続けていたのだから。俺は数学が本当に嫌いだ。中二の頃は、嫌い過ぎて蕁麻疹が出たこともある。
俺が席に戻ると佐和子先生が言った。
「このままでは、君たちの通信簿に点数をあげることが出来ません。今日は訂正ノートが終わるまで三人居残りしなさい」
佐和子先生は、かなり怒っている。それなのに里奈は、佐和子先生が後ろを向いている間に、ベーっと舌を出した。
*
その後テスト解説が始まり、いつものように授業は終了した。
「はぁー。居残りとかだるぅー」
授業が終わり佐和子先生が出ていった後、里奈が伸びをしながら言った。
「仕方無いよ。悪い点数なんだから」
恵美子が小さい声で言う。
「恵美子何点だったの?」
「私三十点だった」
里奈の言葉で恵美子が恥ずかしそうに答案を広げた。
「三十点って欠点じゃないじゃん。私は七点よ」
里奈は恥ずかし気もなく答案をバッと広げる。そしてクルっと俺のほうに振り返った。
「あんた何点だったの?」
俺はギクッとした。絶対里奈にバカにされると思った。だがここで言わない訳にはいかない。
「0点だよ」
俺はゆっくりと答案を広げて言った。すると里奈は、目をキラキラ輝かせた。
「0点生で見たの初めてだわ。ネズミに耳を食べられたロボットのアニメ以外見たことないから何か感動」
里奈にバカにされると思い込んでいた俺は、ポカーンとした。
「里奈ちゃん感動してる場合じゃないよ。それより和樹君何かあったの? 英語の点数も悪かったじゃん」
俺と恵美子は、英語でクラスの首位を争う関係である。前のテストで一位だった俺が、五位に転落したことが気がかりだったのだろう。俺は封印していたこの前の出来事を話そうと思った。
「実は……。この前弓道八節を体育館に見に行った帰りに幽霊を見たんだ」
「はぁ? あんたさらにバカになったんじゃないの?」
「ちょっと里奈ちゃん」
恵美子が里奈を黙らせる。
「学園食堂の横の通路辺りで、急に空気が殺気立って。後ろを見たら居たんだよ。白い着物を着て死にそうな目をしていた。若い女の子だった。俺は一目散に後ろも見ず靴箱まで戻ったよ。幽霊見たのは無かったことにして、言わないでおこうと決めていたけど話そうと思って」
里奈は胡散臭い顔をしていたが、恵美子は真面目に聞いてくれた。
「もしかしてそれ、クラス小戦争で死んだ生徒の亡霊なんじゃない?」
恵美子の言葉に俺はハッとした。そうかもしれない。
「面白いわ。あんたが見たって言うなら放課後居残り中に見に行きましょ」
里奈が勢いよく立ち上がった。
「でもバレたら佐和子先生怒るよ」
「大丈夫。佐和子今日は職員会議出るみたいだし」
恵美子が不安そうにすると、里奈が余裕の顔で恵美子に言った。
「和樹君どう? 和樹君が見に行くって言うなら私も見に行く」
恵美子がオドオドした感じで俺に聞いてくる。
「いいよ。三人で見に行こう」
本当は行きたくない。だが里奈が行く気満々だし、一人で行かせるわけにもいかないので、俺は同意した。
こうして俺たち三人は、放課後に幽霊を見に行くことになった。
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