成仏できない幽霊さん
しんたろー
第1話 遭遇
期末試験三日目の夕方、俺は明日の保健体育の試験に出る
この学校では、一年で茶道と華道、二年で弓道、三年で柔道と剣道を授業で受けることになっている。
俺は現在二年生で、弓道を習っていた。弓道八節とは、弓道の八つの動作のことである。
「ねぇ和樹。明日の保健体育に出る弓道八節の内容を放課後体育館に見に行ってきてよ。お願い」
今日の昼、数学の補講授業後、ギャルの里奈がだるそうに赤いリップを塗りながら俺に言った。
「はあ? お前も来いよ」
俺は呆れて里奈に言った。里奈は人使いが荒い。
「だってあんたどーせ暇でしょ? あたし達は忙しいの」
その後ろで、恵美子が申し訳なさそうに手を合わせて笑っている。まさか恵美子まで……。
「ごめんね。和樹君お願い」
はぁ……。――まあいっか。前にコンビニで里奈におごってもらったし。
「いいよ」
そう思い俺は引き受けることにした。俺も見ておかないとテストが解けないから、自分の目でしっかり確認しておこうと思った。明日は嫌いな数学の試験があるが……。
「やったー! それじゃ写メよろしく」
里奈が立ち上がって、恵美子と教室を出ていった。
それにしても、里奈と恵美子の仲がいいことが今でも謎だ。二人は正反対なのだ。普通は仲良くなるはずもないのに。そしてもっと謎なのは、里奈が手話部に入っていることだ。里奈に聞いても「一番暇で楽そうだったから」としか答えない。恵美子は「将来公務員になるために役立てたいから」と言っていた。俺はと聞かれると、実は俺も里奈と同じ理由で始めたのだ。でも里奈には本当の理由があるような気がしていた。
*
しばらく歩いてやっと体育館前に着いた。この学校は、校舎から体育館がとても遠い。しかもこの学校の体育館は、曰く付きだ。
数年前、この学校では一人か二人の生徒が死んでいる。その犯人が特定されて、やっと捕まりそうになった時に、犯人は銃を取り出して、この体育館で前教頭に発砲した。前教頭が一命をとりとめたのか、そこまでは知らない。そしてもう一人銃を向けられた生徒がいた。デパートの息子だったような気がする。世間はこの一連の事件を‘‘クラス小戦争’’と呼んでいた。
「まぁ。昔のことだし。俺には関係ないし……」
俺は独り言を言いながら上履きに履き替えた。体育館の中は薄暗い。ステージの左端に弓道八節のそれぞれの動作が書かれている。俺はステージに入って行く扉を開けて、写真を撮った。
「これで良し。写メ送信完了っと」
二人に写メを送信して、俺は体育館の正面玄関に戻った。薄暗い体育館は、俺でも不気味だ。
*
外に出て、薄暗い通路を歩いていたその時、空気が一気に殺気立った。俺は思わず立ち止まった。右後ろに何かいる。俺はゆっくりと震えながら後ろを見た。
「あ……の……」
白い着物を着た青白い女が、死にそうな目で立っていた。
「ぎゃーーーー! 出たぁーーー」
俺は後ろを振り返らずただ必死で校舎に戻った。
校舎には、何人かの生徒がいて電気も点いていたので、俺は安心してしゃがみ込んでしまった。だが生徒が奇異な目で俺を見るので、すぐに立ち上がった。
教室に帰り荷物をまとめて、今日のことは無かったことにしようと、平然とした顔で帰宅した。
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