最終話 12月25日 初恋はつもる、雪のように

 いつの間にか、あなたを私のモノだと思っていた。

 でも、あなたは私のものじゃない。


 だからメッセージを送った。


 これからあなたの時間をください、と。


 いつか、思い出したら羞恥心で死ぬと思う。

 けれど、後悔はなかった。

 だってこれは、私が一番……一生かけてほしいものだから。



「……コレが、ちなのリクエストなのか?」


 フードにつもった雪を払いつつ、優しい眼差しをくれるあなたへ微笑み返す。。


「他にほしい物が思いつかなかったんです」


 すると、彼の口元にも笑みが滲んだ。


「だからって、当日の深夜に『時間をください』か?」


 隣に並んだ彼はただ一言、「いいぞ」と告げる。

 しかし、言葉はそこで途切れない。


「息抜きなら、いくらでも付き合ってやる」


 だから私は、「違うんです」と答えてから、缶を呷る。

 そして、空になった缶珈琲をゴミ箱へ捨て――、


「付き合ってくれませんか……散歩」


 ――隣り合ったまま歩き始めた。




 真新しい積雪の上を並んで歩く。

 振り向くと、二人分の足跡ができていて……それが無性にくすぐったかった。


「私、本当に時間がほしいんです」

「それは……どれくらい?」


 真面目な声色に、首を振って返す。


「わかりません」


 私が歩みを止めた後、彼は数歩先まで進んでから立ち止まり……ゆっくりと振り返った。


「きっと、私がほしいのは……あなたとの間にひらいた時間を埋めるだけの時間と、これから先の全部なんです」


 もう、言葉は取り消せない。

 高鳴り始めた心臓を押さえながら、『どうか、今だけは素直な言葉だけを彼に伝えて』、と心へ言い聞かせ……冷たい空気をいっぱいに吸い込んでから、彼へ告げた。


「私が、大人になるまで時間をください」


 見開かれた瞳と、目線が合った。


「これから先の時間は、全部私にください」


 これは告白だと、口にしてから初めて気付いた。


「もう誰にも、あなたの時間をあげないで……」


 もう、元の関係には戻れないと思った。

 でも、それでも……あなたを私のものだと、言えるようになってしまいたい。


「約束して……あなたは私のだって、約束っ」


 寒さを忘れそうなくらいに頬が熱い。

 しかし、差し出した小指に小指が重なった瞬間――まだ上があったんだと思った。




 雪がつもっていく。

 私が抱いた想いのように、彼と重ねてきた時間のように……ゆっくりとつもっていく。


 だけど今、この初恋だけは雪に例えてはだめだと思った。

 だって、溶けてなくなったら困ると思うから…………彼がね。

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