最終話 12月25日 初恋はつもる、雪のように
いつの間にか、あなたを私のモノだと思っていた。
でも、あなたは私のものじゃない。
だからメッセージを送った。
これからあなたの時間をください、と。
いつか、思い出したら羞恥心で死ぬと思う。
けれど、後悔はなかった。
だってこれは、私が一番……一生かけてほしいものだから。
◆
「……コレが、ちなのリクエストなのか?」
フードにつもった雪を払いつつ、優しい眼差しをくれるあなたへ微笑み返す。。
「他にほしい物が思いつかなかったんです」
すると、彼の口元にも笑みが滲んだ。
「だからって、当日の深夜に『時間をください』か?」
隣に並んだ彼はただ一言、「いいぞ」と告げる。
しかし、言葉はそこで途切れない。
「息抜きなら、いくらでも付き合ってやる」
だから私は、「違うんです」と答えてから、缶を呷る。
そして、空になった缶珈琲をゴミ箱へ捨て――、
「付き合ってくれませんか……散歩」
――隣り合ったまま歩き始めた。
真新しい積雪の上を並んで歩く。
振り向くと、二人分の足跡ができていて……それが無性にくすぐったかった。
「私、本当に時間がほしいんです」
「それは……どれくらい?」
真面目な声色に、首を振って返す。
「わかりません」
私が歩みを止めた後、彼は数歩先まで進んでから立ち止まり……ゆっくりと振り返った。
「きっと、私がほしいのはこの数歩分……あなたとの間にひらいた時間を埋めるだけの時間と、これから先の全部なんです」
もう、言葉は取り消せない。
高鳴り始めた心臓を押さえながら、『どうか、今だけは素直な言葉だけを彼に伝えて』、と心へ言い聞かせ……冷たい空気をいっぱいに吸い込んでから、彼へ告げた。
「私が、大人になるまで時間をください」
見開かれた瞳と、目線が合った。
「これから先の時間は、全部私にください」
これは告白だと、口にしてから初めて気付いた。
「もう誰にも、あなたの時間をあげないで……」
もう、元の関係には戻れないと思った。
でも、それでも……あなたを私のものだと、言えるようになってしまいたい。
「約束して……あなたは私のだって、約束っ」
寒さを忘れそうなくらいに頬が熱い。
しかし、差し出した小指に小指が重なった瞬間――まだ上があったんだと思った。
雪がつもっていく。
私が抱いた想いのように、彼と重ねてきた時間のように……ゆっくりとつもっていく。
だけど今、この初恋だけは雪に例えてはだめだと思った。
だって、溶けてなくなったら困ると思うから…………彼がね。
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