第317話 11月4日(だって、散らかってたし……)/【お節介焼きのデュエット】

『最近、ずっと彼の家で勉強してたんでしょ? 明日は顔を見せてあげてね』


 夕闇の中、彩弓さんに焼かれたお節介を思い出しながら、ぴたりと足が止まる。

 目の前にはすまし顔のインターフォン。

 内蔵された小さなカメラと目が合った瞬間――、


『押さないの?』


 ――と訊かれた気がした。


「…………」


 重たい人差し指を持ち上げつつ、やっぱり帰ろうかとも考える。

 しかし――気付いた時にはお馴染みの電子音が響いていた。

 そして、すぐに「はーい」というくぐもった声が聞こえてくる。

 こうなると最早逃げる暇などなく――、


「……え?」


 ――ドアが開いた途端、頭上に疑問符を浮かべる彩弓さんと見つめ合っていた。


「……ちーちゃん? なんでうちに遊びに来たの?」

「……だって、彩弓さんの部屋が散らかってたので」


 直後、彩弓さんが手で顔を覆う。


「掃除、必要ないですか?」


 首を傾げてみせると、彼女は更に天を仰いだ。


「それを『余計なお世話だ』って一蹴できない自分が情けないよ……っていうか、なんで茉莉ちゃんまで一緒にいるの?」


 私に代わってインターフォンを押した茉莉は「あたしですか?」と前置くなり――、


「あたしはちなが、……って言うからついてきました」


 ――どこか棘のある口調で答えた。


「はぁ……なるほどね。とりあえず、二人ともあがりなよ。もう外寒いでしょ? というか茉莉ちゃんは時間大丈夫? 今、結構遅いけど……家、ここから遠くなかった?」


 心配する彩弓さんへ、茉莉は「大丈夫です」と返しつつ、一歩前に出る。


「夕飯は食べて帰るって親に言ってるし、最悪迎えに来てもらうので……それに」

「……?」


 玄関へあがる間際、茉莉が彩弓さんに耳打ちしたと思ったのだけれど……気のせいだったんだろうか?







 茉莉は智奈美から『彩弓さんの家に行く』と訊いた瞬間、溜息を吐いていた。

 だが、無理やり親友を彼の元へ連れて行こうとしてもダメなことは既に知っている。


 だからこそ、智奈美に『』と言ったのだ。


 そして――、


「夕飯は食べて帰るって親に言ってるし、最悪迎えに来てもらうので……それに」

「……?」


 ――家にあがる間際、茉莉は彩弓へこう耳打ちしていた。


「……帰りは、ちな経由でお兄さんの車に送ってもらうつもりです」


 たった数秒の言葉。

 だが、彩弓が茉莉の考えを理解するには十分すぎた。


(問題はちなが小父さんに車を出してもらうって言い出した場合だけど……まあ、なんとかなるでしょ)

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