第241話 8月20日(そう……今の一年生は、誰も知らない)
『花火がたくさんあるんだけど、もらってくれる?』
秋へメッセージを送信した後、文面からにじみ出る頭の悪さに溜息が出た。
(といっても……他に書きようもないよね?)
まだ午前十時を過ぎたばかり……今頃、秋は部活の真っ最中だろう。
(返信は早くても昼過ぎかな?)
急用でもなし、ベッドへ寝転がりながら枕元にスマホを放る。
しかし、ぼんやりベットシーツの模様を眺めていた時――、
「……あ、しまった」
――まだ、茉莉を花火へ誘っていないことに気付いた。
◆
ハズレ枠ではない花火の写真を何枚か撮り、茉莉――もとい、陽菜ちゃんへどれで遊びたいかリクエストを訊くと、返信が思いの外早く届き、とんとん拍子に明日遊ぶことまで決まってしまった。
しかも、自分達で遊ぶ花火の仕分け作業を終えた直後に、秋から返事が届いたのだ。
……これはスムーズにいけば今日中に秋へ花火を渡せる気がする。
(良い返事がもらえたら、部活終わりの秋と待ち合せようかな)
窓から見える空模様はかんかん照り。
でも、夕方には多少マシになっているだろう。
眩しい陽の光からスマホへ視線を逃すと、メッセージは疑問符を浮かべる犬のイラストから始まっていた。
『花火ですか?』
続けて送られてきた疑問文へ『そう花火』と返しつつ、画角いっぱいに映った花火の写真を添える。
続いて送られてきたのは、ひどく驚いた犬の顔だった。
『こんなにたくさん!?』
『いいんですか?』
『もちろん』
『私も知り合いからもらったんだけど、使い切れないから困ってるの』
『だから、もらってくれると嬉しい』
『ちーちゃん先輩っ!』
短い感嘆文に添えられた恍惚そうな犬のイラストが二コマ漫画よろしく動く。
ふりふりとしっぽを振る様子で、はしゃいでる秋の姿が想像できた。
『あ!』
『でも、わたしもこんなに使いきれません!』
これは予想できた受け答えだ。
さっそく『剣道部の皆でならどう?』と送る。
もちろん『私からってのは内緒にしてね』と付け加えた。
だが――、
『えっ!』
『すみません。今、後輩たちに話しちゃいました』
――唐突に、私の匿名花火寄贈計画は崩れる。
けれど……秋の後輩になら大丈夫だ。
だって、彼女たちは私のことを……知らないから。
『三年生に内緒にしてくれたら大丈夫だよ』
『話しちゃった後輩たちにも言い含めておいてね?』
『はいっ!』
たった数文字の弾けるような文字列につい口元が緩む。
その後、部活終わりに会う約束をした所で会話は終了した。
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