第240話 8月19日(匿名希望ってことで、あげれないかな……?)

 昨日、彼から花火をもらっおしつけられたのだけれど……正直、かなり持て余していた。

 なにせ、量が多い。

 茉莉と陽菜ちゃんを花火に誘ったとしても、三人では使いきれないだろう。


「……はぁ」


 ベッドの上に並べた賑やかなパッケージと見つめ合うたび、溜息が漏れる。

 仮に、彩弓さんや彼を花火に誘ったとしても、使い切るまでに二、三回は掛かるだろう。

 だが、何度も私主催で花火大会を開催したくはなかった。


(……別に、花火が嫌って訳じゃないけど)


 ふと、繰り返し親友たちを花火に誘ったらどうなるかと想像する。

 茉莉は呆れ顔で『また? そんなに花火すきだったっけ?』と首を傾げ、彩弓さんは『いやいや、これは花火が好きなんじゃなくてあたし達のことが好きすぎるやつでしょ!』なんて嬉しそうにニヤついた。


「…………」


 別に花火は嫌いじゃない。

 しかし、花火が大好きな寂しがり屋と誤解されたくもなかった。


 無理して使わず来年まで取っておくという手もあるが……大学生になった後で、花火をする自分の姿がうまく想像できない。

 逆に、何年も放置したあげく火薬が湿気て遊べなくなるというもったいない未来は上手に想像できた。


(……やっぱり、自分達で使いきれない分を誰かにあげた方が早いかな?)


 自分達だけであっぷあっぷしながら無理やり遊ぶよりも健全だし、もらった相手が喜んでくれたなら両得と言える。

 でも……この場合、あげるのかという問題が残っていた。


 茉莉にあげてもいいのだけれど……花火で遊ぼうと誘った上で使いきれなかった花火をあげるのは心がもやもやする。

 彼女は気にしないだろうが、余りものを押し付けるようで気に入らなかった。


 直後――いっそ、母に相談したら、上手く処理してもらえるのではないかと思い付く。

 例えば、近所のお子さんがいる家庭に配るとかしてもらえないだろうか?


 だが、妙案が浮かんだと思った刹那――、


(いや、待って……)


 ――と、胸の内で『待った』が掛かった。


(……コンビニのハズレくじが混ざった花火なんて、ご近所にあげていいのかな?)


 安物ですらないハズレを人にあげるのははばかられる。

 かと言って、当たりだけをあげて自分達はハズレで遊ぶと言うのも避けたかった。

 私と茉莉だけならともかく陽菜ちゃんもいるんだ。

 ちょっとは良い花火で遊ばせてあげたい。


(他に候補は……ある程度、気心が知れていて、大量の花火をあげても迷惑にならない大人数)


「……あ」


 思わず、秋達剣道部の顔が浮かんだ。


 

 




 










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