第236話 8月15日(……コレ、いいかもしれない)
食べ物の屋台が並ぶ通りから離れてベンチに座っていると、どこで買ったのか風鈴を片手に歩く少女を見かけた。
「……あんなの売ってるんだ」
「あんなのって?」
小首を傾げる茉莉に指差ししてみせる。
「あれ、風鈴」
「風鈴?」
「女の子が持って歩いてるやつ」
「んー…………?」
茉莉は人混みに向かって目を凝らすなり黙り込んでしまう。
しかし、彩弓さんが「あれじゃない? 黄色い浴衣を着た女の子が左手で提げてる」と情報を付け足した途端に「あっ!」とこぼした。
「あー……あれか、なるほどね。ここに来るまでの屋台じゃ見なかったから、もっと奥で売ってるんじゃない?」
直後「なに? 欲しいの?」と親友に顔を覗き込まれる。
「別に、そこまで欲しい訳じゃないけど……まあ、変なくじ引きでお金を使うよりはマシかな?」
お祭りへ来たのに、屋台で食べ物だけ買って帰るというのも味気ない。
気に入ったものがあれば、多少は財布の紐を緩めても良いかなと思った。
「じゃあ、食べ終わったら探しに行こっか」
「ん」
私が頷くのを見ると、茉莉は彩弓さんのいる方へ向き直る。
「彩弓さんも、それで大丈夫ですか?」
「もちろんいいよ。私も気になるしね」
静かに微笑んだ後、彩弓さんは残っていたたこ焼きを素早くひょいひょいと口へ運んでいく。
しかも、食べ終わるとすぐにラムネを喉へ流し込み……、
「あ、彩弓さん?」
「よし! ごちそうさま! 二人は? もう準備オーケイ?」
……茉莉と顔を見合わせつつ、彩弓さんは風鈴が好きなのかな? なんて考えていた。
◆
人混みの端を一列になって歩きながら――、
「風鈴が好きっていうより、硝子製品が好きなのよ」
――彩弓さんは楽し気に話してくれた。
緩みきった表情を見て、『そう言えば』と彼女の家が思い出される。
「……言われてみれば彩弓さんの家、食器もガラス製品が多かったですよね」
以前もらったカフスボタンも硝子製品だったし、本当に目がないんだろう。
「そうそう。だから買いすぎないようにしないと……そうだ。ちーちゃん、九条ちゃん」
「はい?」
「なんですか?」
「もしもの時は、私のこと止めてね?」
真剣な眼差しで頼む彩弓さんに若干引きつつ……私達は目的の屋台に辿り着いた。
そこは風鈴だけを扱っているのではなく、箸置きからコップまで様々な商品が並んでいる。
さっそく彩弓さんが茉莉に叱られ始める中、
「あ……コレ」
小さなガラス細工をぶらさげたスマホ用のストラップが、私の目に留まった。
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