第227話 8月6日【物足りない最適解にどろっぷきっく】

 『九条には世話になったから報告しておく』

 『もう、向坂から聞いてるだろうけど、俺達別れたよ』


 楠から届いたメッセージに、茉莉は小さな溜息を吐いた。

 安堵と後悔が入り混じる中、彼女は友人として楠へ返事を書く。

 だが、


 『楠はがんばってたよ』

 『だかr  だから――


 言いたいことはたくさんあるのに……それ以上、茉莉は楠へどういう言葉を送ればいいのかわからなくなった。


 大丈夫? と慰めたかった。

 よく頑張ったと励ましたかった。

 あの時、なんであんな言い方をしたの? と叱りたってやりたかった。


 なのに、


 短い文章では、どう書いても伝わらないと感じた。

 頭の中はぐちゃぐちゃで、声に出そうにも考えがまとまらない。

 しかし、何も言えないままでは終われないと、彼女は書きかけた文章を消して――スマホを耳にあてた。


『九条? 急に――』

「ごめん」


 通話開始早々、短い謝罪した茉莉に対して楠は穏やかに返す。


『……言いたいこと、それだけじゃないんだよな?』


 茉莉は言葉を手繰り寄せられるまま――、


「……ばか」


 ――泣きそうな声で罵倒した。


『まだあるだろ?』

「……もうないよ」

『本当か?』

「これ以上は、たぶんあんた泣いちゃうと思うから。流石に振られた直後の男をいたぶる気はない……」


 直後、茉莉の耳を微かな笑い声がくすぐる。

 けれど――、


「……何?」

『いや、向坂と別れたら九条とも上手く話せなくなる気がしてたからさ。だから、普通に話せて……ちょっとほっとした』

「……まあ、友達だからね。話すくらい何でもないでしょ」


 ――茉莉の明るい声色に、返って来たのは沈黙だ。


「……楠?」

『向坂とも……ずっと、これで良かったんだ』


 穏やかだった楠の言葉に、初めてヒビが入る。


『……野球ばっかやってきたせいかな。向坂には間違えてばっかりだった』


 楠の自分に呆れたような言い方を聴いた途端、茉莉は口を開いていた。


「そんなことない……全然そんなことないよっ。だってちな褒めてた! 気にしてた! 一生懸命頑張る楠のこと! それに間違えたって言うならあたしも――」


 でも、茉莉は最後まで言いたいことを話せない。

 また、楠が笑い始めた所で彼女の言葉は途切れた。


『なんで九条が泣きそうになってんだよ』

「なっ――」


 落ち込んだ気分が、いつもの苛立ちに変わる。


「……確かに、間違えてばっかり。そもそもあんたが女だったら何の問題もなかったんじゃない?」

『確かにっ、そうかもな』


 だが、では彼女も張り合いがなかっただろう。

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