第219話 7月29日(…………心配性)
家にあった映画のDVDやヘッドホン等を紙袋へ入れてから玄関を出る。
昼前と言えど陽射しは強く、彼の家へ着くまでにもじんわり汗が滲んできた。
◆
居間へ通された途端、彼から「いつものでいいよな?」と首を傾げられる。
しかし、訊くだけ訊いて彼は返事を待ったりしない。
その足は既に台所を目指しており、背中には『答えなくてもいいぞ』と書いてあった。
だが――、
「はい。
――と一応返事はしておく。
すると、間髪入れずに「了解」と声がして……姿が見えなくなったかと思えば、いきなりひょいと顔を覗かせた。
「今日は、氷入れるか?」
普段は入れない氷の有無を訊かれる。
そんなに暑がっているように見えたんだろうか?
「そうですね……」
珈琲自体が冷蔵庫で冷えているから、必要はない。
ただ……今は味が薄くならない程度に二つか三つなら入っていても構わないかな、という気分だった。
でも、わざわざ言葉にするのはめんどくさい。
なので「……おまかせします」と、伝えた所――、
「んー……なら、小さいのを三つくらい入れて持って来るよ」
――これからは、もう全部『おまかせ』でいいんじゃ……なんて、思ってしまった。
◆
涼しげなアイスコーヒーを差し出すなり、彼は慌ただしく仕事部屋に戻って行く。
なんでも「今日はこれからずっと作業」だそうだ。
別に、彼と遊びたくて来た訳じゃない。
だから、相手にしてもらえないことは全然いい。
全然いいのだけど……――、
「映画、こっちで見ててもいいですか? ヘッドホン使うので」
――私は、ポータブルDVDプレイヤーを引っ張り出し、返事も聞かずに仕事部屋の隅へ座った。
ヘッドホンをつけると、くぐもった声が聞こえてくる。
「そ
ディスクをプレイヤーへセットする間、言葉は返さなかった。
しかし、映画を再生する直前――今から話しかけないでという思いも込めて、声を出す。
「……何も。ただ、一人でぼんやりしていると色々と思い出して、考え込んでしまって――」
危うく、口から出かけた『迷惑でしたか?』という情けない質問は飲み込み、再生ボタンを押した。
画面に、よく知らない海外の企業名が映る。
本編が始まるまであと十数秒……そんな束の間の静けさが訪れたタイミングで――、
「…
――私は一方的な約束を取り付けられてしまった。
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