第216話 7月26日(最近、ちょっと甘え過ぎかな……)

「ありがとうございましたー」


 ショッピングモール内にある専門店街で水着を買った直後――、


「ねぇ?」


 ――手に提げた紙袋へ茉莉の視線が注がれるのを感じた。


「水着、本当にそれラッシュガードで良かったの?」

「……いけない?」

「いけなくはないけどさー……」


 つんと拗ねたように尖る親友の唇は、いかにも不満げだ。


「機能美的過ぎるというか、あんまり可愛くないというか……」

「いいでしょ、別に。フワフワしたのとかゴテゴテしたのって好きじゃないの」

「それはそうなんだろうけどさぁ……ちな、その上からさらにもう一枚羽織る気だよね?」

「ん。買ったの、袖が短いやつだし」


 肯定した途端、茉莉の口から「はぁ……」と深いため息が漏れた。


「……茉莉?」

「もう服じゃん、それ! あたしはちなと一緒に可愛い水着が着たかったの!」

「……一緒に、ね」

 

 ちらりと、彼女が提げる紙袋へ視線を移す。

 そりゃ、茉莉の選んだ水着パレオ付きのホルターネックに比べれば地味だろうけど……私だって、売り場へ並んでいた水着ラッシュガードの中から可愛いデザインを選んだつもりだ。

 しかし――、


「水着は水着でしょ?」

「はぁ……これだもん」


 ――茉莉に納得してもらえないまま、彼女の機嫌は傾き続け……なかなか元に戻ってくれなかった。





 茉莉の機嫌が直ってくれたのは『DVDを借りて二人で家に戻ってから見る』という予定を『映画館での映画鑑賞』に変更した後だった。


「地元じゃ絶対やらないと思ってたのに!」


 人気薄な新作映画のポスターを前にした親友へ「観ていこっか」と囁いた結果だ。

 ただ、茉莉の観たい映画が上映していると知ったのは上映開始の三十分後……次の上映までかなり時間があった。


「もう少しぶらぶらしたら、早いけど晩ご飯食べて時間潰す?」


 茉莉の提案に「それはいいけど……」と玉虫色の返答をしてしまう。

 理由は、今日の天気にあった。

 スマホで時間を確認した後、独り言のように「夜から大雨だっけ?」とこぼす。


「台風近付いて来てるもんね」


 それから一度二人で外に出て、一面の曇り空を見上げた。

 迂闊なことに、今日はどちらも傘を持って来ていない。

 当初の予定が『雨が降り出す前にやることをやってさっさと帰ろう』だったせいだ。


「……流石に、映画が終わるまではもたなさそう」

「諦めて帰る?」


 心底残念そうに首を傾げる茉莉へ『そうしようか』とは言えず、


「……ちょっと待って」


 私はスマホを引っ張り出してすぐ――彼へわがままメッセージを送信した。


『あの、お願いがあるんですけど』

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