第215話 7月25日(……そんなに、心配かけてるのかな?)
朝、目が覚めて体を起こした瞬間、
「
お尻に固い感触が刺さる。
鈍痛で表情が歪む中、布団をめくってみると……寝ていた場所に
(……なんで?)
ペンを指でつまみながら浮かび上がる疑問。
ぐるりと部屋を見渡してみれば、勉強机の上にやりかけの課題が放置されている。
「あー……仮眠のつもりで寝てそのままか」
納得したところでベッドから起きあがり、勉強机へペンを置きに行く。
昨晩、遅くにやっていた課題はなんとも中途半端な所で放置されていた。
おまけに、普段よりもだいぶ字が汚い。
「…………」
転がっていた消しゴムで、糸くずが寄せ集まったような字を消していく。
その後、上から書き直した解答に一人頷くと――、
「よし…………歯、磨こ」
――空腹を覚えつつも、まずは洗面所へ向かった。
◆
洗面所へ入ると、父が顔をタオルで拭いている所だった。
「ちなか。おはよう」
「ん、おはよう……父さん、代わって」
「ああ、すまん」
父と入れ替わりで洗面台の前へ立ち、蛇口から水を出す。
歯磨きの前に顔を洗っていると――、
「ずいぶん眠そうだな?」
――後ろから父に訊ねられた。
「そう? 昨日、夜中まで課題やってたから……たぶんそのせい」
「課題って、夏休みの?」
父とは別のタオルで顔を拭きながら「そうだけど」と頷く。
すると、父は呆れと感心が半々になったような声色で「まだ夏休み始まったばかりだろう?」なんて首を捻って返した。
「根を詰めるにはまだ早いんじゃ――」
「私も今年は受験生だし、学校の課題なんて早めに終わらせて、受験勉強に集中した方が良いでしょ?」
「それは、そうかもしれないが……行きたい
「なんで? むしろ担任には今よりもっと難しい
直後、父の頭上に感嘆符が浮かぶ。
「それは初耳だ」
「……いちいち、言わなきゃだめ?」
洗面台の鏡越しに見た父は、少し落ち込んだ雰囲気を
寂し気に伏せられた視線は、若干の罪悪感を抱かせないこともない。
「……また、色々決めたら相談すると思うから。今は、ちょっとだけ放任しててよ」
歯ブラシを手に取って口へ突っ込み、鏡から目を逸らす。
「……わかった」
気持ち明るくなった父の声色に胸を撫でおろした途端、
「ただ、母さんにはもう少し色んなことを相談してあげなさい。あれで、寂しがっているみたいだぞ」
さっそく、新しい罪悪感を抱かされてしまった。
「……そのうちね」
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