第201話 7月11日(……「せいかーい」じゃ、ないっての)

 昼過ぎに自室からリビングへ降りると、母が一人でカップアイスを食べていた。

 喉が渇いたからお茶を飲みに来ただけだったのだが……目の前で食べている所を見ると、つい食べたくなってしまう。


「アイス、まだある?」

「山ほどあるわよ。今朝、いっぱい買って来たから」

「……ふーん?」


 冷凍庫を開けるとに、山ほどのアイスがぎゅうぎゅう詰めに押し込まれていた。

 もはや、冷蔵庫が占拠されたと言っても過言ではない。

 まったく……ここに入っていた筈の冷凍食品はどこに行ったんだか……。


 それから、大量にあるアイスの中から好きなキャンディーを見つけて取り出すと――、


「やっぱりね」


 ――何故か、急に母がしたり顔を披露し始めた。


「……何?」

「別にー? ただ、絶対それを選ぶだろうなって思ってただけ」


 得意げに言う母へ思わず溜息が出る。


「いつも食べてるやつを当てたって自慢にならないでしょ?」


 包装を破りながら返すなり、母は「そうかな?」と首を傾げた。


「こういうのって、もっと選択肢がある中から当てるからすごいんだと思うよ」

「んー……?」


 スプーンを咥えてうなる母は何か考えているらしい。

 どうせろくなことではないとあたりをつけ、自室へ戻ろうとしたのだが――、


「あっ!」


 ――一歩遅かったみたいだ。

 母は唐突に声をあげたかと思えば「じゃあさ。ちなは今夜の夕飯、当てられる?」なんて訊いてくる。 

 にこにこと笑う姿はなんとも楽し気で、私とは正反対だ。


「それ、選択肢多すぎじゃない?」


 フェアじゃない気がして抗議をしてみても、母は「そんなことないわよ」と真面目な顔で一蹴した。


「ちゃんと冷蔵庫の中身とか、冷凍庫の中身を見て、母さんの深層心理をよーく考えれば当てられる筈」

「……深層心理ねぇ」


 疑い半分で冷凍庫に続き冷蔵庫を開けてみるが……中にはまだ日持ちしそうな食材が結構並んでいて的を絞れない。


 冷蔵庫を閉じた途端、口から溜息がこぼれた。


(この暑い日に、何をさせられてるんだろう……)


 母は『深層心理を考えれば』なんて言っていたが……この人なら『今日は暑くて何も作りたくないから出前です』とか言いかねない。

 でも、それだと冷蔵庫や冷凍庫の中身は関係がなくなってしまう。

 ヒントとして挙げたからにはは関係があるはずだ。

 けれど……冷蔵庫はともかく、冷凍庫にはアイスしか入ってなかったし――と、アイスのことを思い出した瞬間、閃いてしまった。


「……賞味期限前の冷凍食品?」

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