第174話 6月14日(……あの積極性は見習うべき、かな?)

「……そろそろ付き合って二週間だっけ?」


 茉莉はさほど興味もなさそうに、私達――いや、楠へ向けて言った。


「……そうだけど。なんだよ?」

「別に? あたしを巻き込んで小塚と出掛けた以外に、まともに恋人らしことしてんのかなって……少し気になっただけ」


 頬杖をつきながら愚痴っぽく話す茉莉は若干やさぐれ気味だ。

 しかし、そんな茉莉の不機嫌さを知ってか知らずか――、


「おっ! じゃあさ、また四人でダブルデートに行くってのは? 近場で何か食べるくらいなら時間も作りやすいし」


 ――彼女の傍で、小塚が提案をする。

 だが、茉莉はキッと目付きを鋭くするなり、


「行かないし、前のあれもWデートじゃないから。ホントやめて」


 と、小塚のことを冷たくあしらおうとするのだけれど……当人に堪えた様子はなかった。

 すると、見兼ねたように楠が助け舟を出――、


「おい、お前は俺達を出汁に九条と出掛けたいだけだろ。誘うなら堂々と一人で誘ってくれ」


 ――……せてはいなかった。


「マジでやめて。これ以上小塚コイツをけしかけないで」

「待って九条さん! 俺はけしかけられなくてもまた自分の意思でデートに誘いますからね!」


 ……

 小塚の言い回しに私が首を傾げた直後、


「はぁ……」


 茉莉が頭を抱えながら机へと突っ伏してしまう。


「……もしかして、あれからデートに誘われたりした?」


 茉莉へこっそり耳打ちをすると、彼女は静かに頷いた。


「――って! あたしのことはいいのっ」

「おっ、復活した」


 不用意に口を滑らせた楠を茉莉が睨む。

 それから彼女は半ばキレ気味に小塚へ向き直った。


「だいたいね! あたしはあんたに構ってる暇なんてないの! ただでさえこのポンコツカップルのお世話で手一杯なんだから!」

「前々から思ってたけど、九条は俺達を応援してくれてるのか、してくれてないのかどっちなんだよ……」


 楠の疑問に茉莉は「は?」と低い声で返す。


「あのね……あたしはちなの味方なだけで、別に二人の応援はしてないから」

「……その割には俺、結構九条に背中押されてた気がするんだけど?」

「そういうのは応援してることにはならないの。つい世話を焼いたってカテゴリー」

「……違いがわからん」


 頭を捻る楠……そして、二人の様子を小塚は静かに見守っていたのだが――、


「……つまり、楠と向坂さんが上手くいけば、九条さんは俺とデートしてくれるってこと?」

「なんでそうなんのよ……」


 ――小塚の言葉を聞いてすぐ、また茉莉から溜息がこぼれた。

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