第128話 4月29日(こんなこと、夕陽には相談できないな……)

 確信はない。

 ただ、妙な予感があった。


 『楠から、告白されるかもしれない』


 頭の中に浮ついた文章が並ぶ。

 しかし、直後に『ありえない』という一言が飛んできて『告白』の二文字にぶつかった。


 そうだ、ありえない。

 それに、理由がない。

 楠に好かれるようなことをした覚えはないし、優しくしたつもりもなかった。


 いや……でも、お節介を焼いて、多少仲良くしたことはあったかもしれない。

 中でも、委員会へ入れられそうになっていた所を庇ったのは記憶に新しかった。


 ここ数か月の出来事が、小さな心当たりとなって風船みたいに浮かんでくる。

 私は脳内で、その全てに針を刺してまわった。


 だって、あんなのは何でもないことだ。

 あれくらいのことで誰かを好きになるなんて……ばかげてる。


 ……本当に、ありえない。


 でも、もしも真剣に告白されたら?

 私は……どうしたらいいんだろう?


 思わず、頭を抱えてしまった。

 けれど、意外にも答えは一瞬で出る。


『楠から告白されても断ればいい』


 そうするべきだと思った。


 だが――、


『誰かと付き合ってみればに対する想いが何なのかわかるかもしれないよ?」


 ――急に彩弓さんみたいな声が頭の内側から聞こえ始める。


 ……バカじゃないの?


 靄を払うように、妄言を否定した。


 そんなことのために誰かと付き合うなんて間違ってる。


『告白されても断ろう』


 そう、冷静な自分が静かに告げた。




 だけど、一抹の不安が過る。




 本当に告白を断れるだろうか?

 嫌いではない、一歩違えば応援したくなるような楠のことを……ちゃんと、私は拒絶できるだろうか?



 珈琲カップを包む手に、妙な力がこもる。


「ねぇ……誰かと付き合うって、どんな感じ?」


 思い切って訊ねた途端、珈琲を飲もうとしていた彼の唇が歪んだ。


「……フラれたばかりの奴にそれを訊くか?」

「……」


 私だって、普通なら失恋したばかりの相手にこんなことは訊かない。

 でも、


「……他に、当てがなくて」


 彼なら、きっと許してくれるだろうと甘えていた。


「当てがないって……友達は?」


 当然の反応だと思う。

 私自身、真っ先に彼へ相談しようとした訳じゃない。

 ただ、今回は……には相談できないと思っていた。


「茉莉は彼氏とかいたことないし……他の友達にも、相談しにくくて」

「……はぁ」


 重たい溜息を吐いた後、彼の手が珈琲カップから離れていく。

 その後、彼はどこかバツが悪そうに頬杖をつき、私へと向き直った。


「あんまり参考にならなくても知らないからな?」

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