第90話 3月22日(茉莉からこう言うことってあんまりないから……)
両親に心配を掛けたくないからと、剣道部をやめたことは黙っていた。
けれど――、
「智奈美、今年はいつおじいちゃんの家に遊びに行く?」
――母の一言で、それももうおしまいだと覚悟する。
「…………いつでもいいよ」
祖父に会えばきっと、一目で部活をやめたことがバレると思った。
◆
『ま、おじいちゃんの家に行くんじゃね』
「ん……ごめんね、誘ってくれたのに」
電話越しに『いいよ』と言って笑う茉莉の顔が浮かぶ。
『でも24から三日間かぁ。あたしはどうしよっかなぁ』
「……何? 茉莉、暇なの?」
『まあね。去年は陽菜と出掛けたりしてたんだけどさ……あの子、なんて言ったと思う?』
これが楠と渚ちゃんのことを訊かれたなら、私は『わからない』って答えていただろう。
しかし、
「…………お姉ちゃん、うざいみたいな?」
茉莉と陽菜ちゃんに関しては知っている部分も多く……つい、そんな言葉が口を衝いて出る。
すると、
『ひどっ! 流石にそこまでキツイこと言われてないからっ!』
茉莉は怒るよりも泣きそうな声で答えた。
『聴いてよ、ちなぁ』
「ん。聞いてるよ」
『陽菜ってば、もう五年生になるしいつまでもお姉ちゃんにべったりじゃないよ……とか言ってさぁ』
「…………」
わりと、陽菜ちゃんの言い分が正論だと思ってしまうから良くない。
ただ――、
『……ちな? ひょっとして笑ってない?』
――どこか疲れながらも、やっぱり陽菜ちゃんのことが大好きで……こうして姉離れされ始めてショックを受けてる親友の声は、聞いていてどこかほっとさせられた。
「そんなことないよ」
『……本当に?』
「ん。がんばったね、茉莉」
『…………』
返って来るのは静寂。
でも、しばらくして『すぅー……』っという細い息を吸う声が聞こえ、
『はあぁ……』
呼吸音はすぐに大きな溜息に変わった。
『今の、もう一回言ってくれる?』
「はいはい。茉莉はがんばったよ」
『……もっかい』
「茉莉、がんばった」
そんな何でもないやり取りが続いた後、茉莉は再び溜息を吐いて、
『ねぇ……いっそ、あたしもついていっちゃだめ?』
珍しく彼女の方からわがままを言ってくれた。
普段からあんまり人を頼りたがる子じゃないのに……実は本格的に地味なショックを受けてるのかもしれない。
何より――こんな風に茉莉から寄りかかってもらえるのは新鮮で、
「……わかった。訊いてみる」
『えっ?』
気付けば私は彼女との通話を切り、母に訊ねに行った。
「母さん、茉莉も誘っていい?」
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