第46話 2月6日(でも、来てくれるんだ……)

「……ついに明日かぁ」


 他人のベッドへ寝転ぶなり、茉莉は枕に抱きついて大きなため息を吐いた。


「そんなに嫌?」

「嫌っていうか……うん、いや」

「……そう?」


 彼女は枕へ顔を埋め、恨めしそうな目で見つめてくる。


「だって、ちなと一緒に知らない人達のデートに付き添う訳でしょ?」


 茉莉の認識は間違ってない。

 けれど、彼女の言い方は……なんだか彩弓さんの思惑とズレがある気がした。


「……デート、っていうよりも彩弓さんの行きたい所に私達が連れ回されるっていう方が正しいかも」

「……なにそれ」

「茉莉はそれに巻き込まれただけ」


 直後、親友が私めがけて枕を投げつけて来る。

 ボフッ――と、音にならない感触が服の上にぶつかった。


「やっぱそれ! あたし行かなくてもいいやつじゃん!」


 それから茉莉は、ベッドへ寝転がったままこちらに背中を向けてしまう。

 終いには私の布団をかぶり、今にもふて寝しそうになっていた。


「……茉莉?」

「五時になったら陽菜を迎えに行かなきゃいけないから、四時くらいに起こして」

「……えぇ」


 ぴくりとも動かない姿は、静かな浜辺に流れ着いた流木みたいだ。


「……本当に寝るの?」

「わりとほんきで」

「……二人でゲームしたりしないの?」

「しない。だって、ちな弱いし」


 素っ気ない声色からして取り付く島もない……。

 だから、諦めて本でも読もうかと思ってベッドのへりにもたれかかると――、


「こらっ」


 ――ぽてんと、茉莉の腕が頭上に優しく振り下ろされた。


「もっと構うの。諦めるの早すぎ」

「……そう?」


 「そうだよ」と言うなり、茉莉は起き上がって私の隣へ腰かける。


「それで? ゲームするんだっけ?」


 彼女は陽菜ちゃんと共用で使っている可愛いシールの貼られたゲーム機を取り出すが、


「……嫌。だって私、勝てないし」

「……こいつ」


 私の一存で、ゲームはなしの方向になった。


「じゃあ、映画見る? 来る途中で借りてきたやつ」


 茉莉が鞄の中からDVDを取り出して見せてくる。


「ん。いいよ」


 親友へ頷いて返すが、ふと部屋へ持って来たお菓子の量が少ないことに気付いた。

 これでは映画のお供としては心許ない。


「じゃ、なんか追加でお菓子持ってくるね」

「ありがとー。飲み物もほしいかも」


「ジュース? お茶?」

「お茶」


「ん。OK」


 立ち上がって、なんだかこういうの久しぶりだなと思う。

 きっと、明日はこんなゆっくりした時間にはならないだろう。

 そんなことを考えながら、茉莉とのは過ぎていった。

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