【プラスチックジュエルな日々】

第19話 1月10日(……怒ってる?)

 『今から話せる?』


 ベッドへ腰かけながらメッセージを送信してしばらく……今日は茉莉の返信がやけに遅く感じた。

 投げ出していた脚の片膝を抱え、背中がまるまる中、ぴんと耳を立てる。

 そうして『まだかな』なんて考えていると、ふいに着信が入った。


『もしもし、ちな? どしたの?』

「急にごめん……ちょっと相談したくて」

『相談?』


 一瞬、何て切り出そうかと迷い、指先に力がこもる。


「……来週、日曜にデートすることになって」

『ッ――!』


 詰まったように茉莉の声が途切れると、ガタッ――ゴソソッ! とノイズが走った。

 続けて、BB弾を地面へバラ撒いたようなザアァッという音がする。


「……茉莉?」


 真っ暗な空間に耳を澄ませながら彼女を呼ぶと、


『ご、ごめんっ! あーぁ……ビーズひっくり返しちゃった』


 収拾がついていない様子の返事が聞こえた。


「……ビーズ?」

『そうそう、ビーズ。今、陽菜に頼まれててさぁ……うわぁ』


 トーンの沈んだ呟きようで、茉莉の足元が簡単に想像できる。

 キラキラと宝石みたいなビーズが、開封に失敗したスナック菓子よろしく散在しているんだろう。


 しかし、


『はぁ……いいや後で――それで! 今、デートって言った?』


 デートという言葉をぶらさげられ、彼女の声色は元より明るくなった。

 顔が見えないにも関わらず、荒くなった鼻息まで感じる。


『相手は? あの兄さん……じゃないよね? なら、学校の子? なんだよなんだよ三学期始まったばっかりなのに抜け駆けじゃんっ』


 糸玉から糸を引っ張るように、茉莉は途切れることなく話し続けた。

 最初は耳元で暴れるしゃべり声に圧倒されていたが、


「違う。聴いて」


 息継ぎのタイミングを見計らって言うと、ぷつんと言葉が途切れる。


『……うん』


 しんと空気が静まると、思い切って口を開いた。


「その……彼の彼女さんから誘われた」


 その後、ベッドから下ろした脚のつま先でぐにぐにとカーペットを踏みしめて待つけど……返事がない。


「茉莉?」


 あれだけ騒がしかった茉莉が急に何も言わなくなった。


『……お姉ちゃーん、すごい音したけど大丈夫ー?』


 そのうち薄っすらと陽菜ちゃんの声だけが聞こえて来る。

 このままだと茉莉の部屋にある時計が針を進める音まで聞き取れそうだなと思った時、



『……なんで、そんなことになったの?』



 呆れる……と言うよりも、どこか怒っているみたいに訊き返されて、


「茉莉……怒ってる?」


 きゅっと胸倉が締め付けられるような、息苦しさを覚えた。

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