初恋はつもる、雪のように

奈名瀬

第一部 ― 雪解けは春に、ようやく ―

【独り占めできないクリスマス】

第1話 12月24日(やっぱり、彼は私のモノだ)

 いつの間にか、あなたを私のモノだと思っていた。

 あなたに首輪をつけた訳でも、私の名前が書いてある訳でもないのに。

 でも――、


「見つけられないかと思って、焦った」


 ――手中へ落ちた、今にも体温で溶けてしまいそうな雪を見つめるように眼差しが注がれると、


「……ごめんなさい」


 やっぱり、あなたはどうしようもなく私のモノだと思った。


◇ 


 12月24日。

 クリスマスツリーが飾られた夜のコンビニで、ひとり缶珈琲を飲む。


「……はぁ」


 人気アニメのイラストがプリントされたからと言って、珈琲の苦さは変わらない。

 安い電灯じゃ照らしきれない暗闇へと吐息が消えていくのを眺めながら、体は寒さに震えた。


(……マフラーくらいしてくるべきだったかな)


 そんな後悔が浮かぶ中、冷め始めた珈琲から唇を遠ざける。

 既に使い捨てカイロくらいの価値しかない缶を握りしめるけど、固いスチール缶はビクともしなかった。

 頑丈な容器にまたイライラが募る。


 けれど、本当はそんなことどうだってよかった。


(今頃、可愛い彼女さんと夕食の最中か……)


 彼と、顔も知らない女の予定なんて知らない。

 しかし、クリスマスイブに限って言えばそうそうテンプレートは外さない筈だ。


(どうして私、こんな所にいるんだろう?)


 決して口にはしない疑問が、脳内で白い息のように消えた。

 いや、違う。

 思い浮かんだ疑問が、すぐに胸の内で訂正される。


(どうして、彼が私の傍にいないの?)


「……」


 口が寂しくなって、冷え切った缶を唇にあてがった。

 冷たい上に、苦い。

 自傷行為に等しい水分補給。

 次第に立っていることさえ億劫になり、ずるずるとその場へ座り込んだ。


 すると、ちょっとした発見がある。


(あっ……こっちの方が、ぬくい)


 背中を丸め、体を縮こめたせいで体温の逃げ場が減った。

 同時に、この場を離れる気も失せてしまったのだけど……問題はない。


 だが、


(……このまま、風邪でも引いたら会いに来たりするんだろうな)


 それは冷気に晒されるまま体調でも崩してしまおうか――と、そんな考えが固まった直後の出来事だった。


「わざわざこんな日に家出か、智奈ちな?」


 つい、目線が上を向く。


「デート、放って来たんですか?」


 立っていることさえ億劫だったはずの脚に力が入った。

 だって、見下ろされると彼に叱られているみたいで嫌だったから。


「……ああ」


 短い返事とともに首へマフラーが巻かれる。

 ああ、やっぱりだ。


 やっぱり、彼は私のモノだと……思ってしまった。

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