47‐3.飲みすぎです
「えーっとぉ? これで一通り回ったかなー。まだシロちゃんきてないって人、いるー?」
はーい、といくつか手が挙がるも、すぐさま周りの方からツッコみが入り、下ろさせられます。こういったノリの良さも、特別遊撃班らしいですね。
うふふと微笑みながら、わたくしは辺りを見回しました。
わたくしが把握している限りでは、漏れている方はいらっしゃらないと思います。しいて言うならば、飲み会を欠席されているパトリシア副班長くらいでしょうか。
「あ、もしもしー、パティちゃん? リッキーでーす。今大丈夫ー?」
リッキーさんが、通信機で何やらお話し始めました。
かと思えば、
「じゃー、シロちゃんに代わりまーす」
とわたくしに通話口を差し出します。
『お疲れ様です、パトリシア副班長。シロクマのシロです。お久しぶりです、お元気でしたか?』
カートの縁へ前足を乗せ、ギアーと語り掛けました。本当に久しぶりですので、シロクマの尻尾も自ずと揺れてしまいます。
『……どうも、お久しぶりです』
『えぇ、えぇ。本当にお久しぶりですね。申し訳ございません。本来ならば、わたくしからお顔を見せにいくべきだと、分かってはいたのです。ですが、どうにもレオン班長から離れられず、こうして通信機越しでのご挨拶となってしまいました。後日、改めてそちらに伺いますので、よろしくお願い致します』
『……変わりはないようですね』
『お陰様で、健やかに日々を過ごしておりますよ。パトリシア副班長は、いかがお過ごしですか? 変わりはございませんか? ストレスが溜まっていないか、少々心配です。もしよろしければ、わたくしのもふもふを吸いますか? 少しでもお力になれれば幸いです』
『……変わりがないならば、そろそろレオン班長を解放して下さい。ただでさえ事務仕事が進んでいないのです。溜まる一方の書類にもいい加減飽きましたので、よろしくお願いします』
『まぁ、それは申し訳ございません。わたくしはこの通り元気になりましたので、どうぞ遠慮なくレオン班長を連れていって下さい。飼い主ともども、ご迷惑をお掛けしました』
『……私からは以上です。失礼します』
プツ、と通信が切られました。この素っ気なさが、非常にパトリシア副班長らしいです。久しぶりだからか、余計に感慨深さを覚えます。頬も、勝手に緩みました。
「シロちゃん、良かったねー。パティちゃんとお話出来たねー」
『えぇ、お元気そうでなによりです。ありがとうございます、リッキーさん。パトリシア副班長とお話する機会を設けて下さって、わたくし嬉しいです』
ギアーとシロクマの尻尾を振れば、リッキーさんは、笑顔で頭を撫でて下さいます。それから、わたくしを四方八方から眺めました。
「うーん。見たところ、疲れてる感じはないかなー。ねー、アルノーン。シロちゃん、体調大丈夫そうだよねー?」
リッキーさんは、わたくしの背後にいるアルジャーノンさんを見やります。
アルジャーノンさんは、一つ首を縦に揺らしました。
“あぁ、問題ない。だが、念の為少し休ませておいた方がいいだろう”
「そうだねー。平気と言えど、大なり小なり体力は削られてるだろうしー」
“ついでに、レオンの機嫌も取ってきて貰えると嬉しい。シロと班員の戯れを見せられ続けて、そろそろ痺れを切らしそうなんだ”
「あー、所謂シロちゃん欠乏症だねー。はんちょが長く患ってる奴ー」
“放っておいても命に別状はないが、代わりに周りへ被害が出るかもしれないからな。酒も入っていることだし、早めに対処した方がいいだろう”
「オッケー。じゃー、シロちゃんには休憩がてら、はんちょのお相手をして貰いまーす。その後に、またうちの班員達のテーブルを回って欲しいかなー。あいつら、まだまだシロちゃんと触れ合い足りないみたいだからさー。悪いんだけど、もう少し付き合ってやってねー」
『分かりました。お任せ下さい』
前足を挙げてみせれば、リッキーさんもアルジャーノンさんも微笑んでくれました。そうして、わたくしの乗るカートを押していきます。
「おーい、はんちょー。お待たせー。シロちゃんだよー」
リッキーさんがそう言うと、ライオンさんの耳が、ぴくりと跳ねました。
レオン班長は、お酒の入ったグラスから口を離し、お顔をこちらへ向けます。
心なしか、表情が普段よりも険しいです。眉間の皺も、深く刻まれている気がします。鋭すぎる程に切れ長な目が、わたくしへと突き刺さりました。睨まれているのかとさえ思う眼光です。
しかし、わたくしは臆することなく、笑い掛けました。
『レオン班長、ただいま戻りました。わたくし、これから休憩に入りますので、その間お相手をして頂けませんか?』
ギアーとシロクマの尻尾を振ります。カートの縁に顎も乗せ、レオン班長を見つめました。
そのまま過ごすこと、数秒。
徐に、レオン班長が動きました。こちらへ腕を伸ばし、わたくしをカートの中から抱え上げます。
そして、無言で抱き締めました。
己のお胸へ隠すが如く、わたくしの体を両腕でしかと囲います。
『レオン班長? レオン班長ー。おーい』
ぽんぽんと前足で肩を叩きますも、返事はありません。ただ、ライオンさんの耳と尻尾が、断続的に揺れるだけです。
「あー、こうなるかー」
“まぁ、おおむね予想通りだな”
リッキーさんとアルジャーノンさんは、レオン班長の反応に苦笑いを浮かべました。
「ていうかさー、はんちょ、ちょっと飲みすぎじゃない? ペース早くなーい?」
リッキーさんの視線が、テーブルへと向けられます。
確かに、空いたグラスの数が少々多いような気がしますね。レオン班長の吐息からも、アルコールの匂いが強く漂います。
“大方、シロを取られて不貞腐れていたのだろう。やけ酒という奴だな”
「だからってさー、もうちょい考えて飲めなかったのかなー。動けなくなったら困るんですけどー。はんちょを家まで連れて帰るの、俺らなんですけどー」
“だが、こうなることも予想出来ていただろう? あのレオンが、シロを取られて普通でいられるわけがない”
「まー、そうだけどー。そうなんだけどさー。いくらなんでも予想通りすぎなーい? もうちょいこっちの期待裏切ってくれても良くなーい? ねー、シロちゃん。シロちゃんもそう思うよねー? レオンパパには、もっと格好良くいて欲しいよねー?」
『わたくしとしましては、レオン班長には、心のままに振舞って頂ければと思っておりますよ。レオン班長に我慢は似合いませんからね。ですが、お酒の飲みすぎは健康面で心配になりますので、程々にして下さると嬉しいでしょうか』
ギアーと笑顔で答えれば、リッキーさんは
「だよねー」
と大きく頷きました。
「この後、シロちゃんとの触れ合いタイム二周目が始まるんだよー? 一周目でこれじゃあ、次はどうなるんだって話だよー」
全くもう、とばかりにリッキーさんは、シロクマ色の髪ごと頭をかきます。アルジャーノンさんも、苦笑気味にドラゴンさんの羽を揺らしました。
そんなお二人の反応が見えたのか。レオン班長は、腕へ力を込めました。盗られるものかとばかりに、わたくしを抱え込みます。
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