3‐2.整備士さんは上級者です
わたくしが思うに、リッキーさんは、特別遊撃班に配属されて良かったのではないでしょうか。なんせ、これだけ自由に好きなものを作れるのですから。まっピンクのつなぎも、恐らくこの班だからこそ許されるのだと思います。
レオン班長は、最低限のことをやっていれば、基本的には何も言いません。だからこそ、厄介者扱いされていた方々が集まってくるのでしょうね。
ですがそういった方こそ、能力的には非常に優秀だと、わたくしは思います。
扱いが難しいだけなので、その辺りを上手くやれば、リッキーさんのように素晴らしい働きを見せてくれます。
個人的に一番素晴らしいと思ったのは、わたくし専用のお手洗いを作って下さったことですね。
レオン班長のお部屋と、こちらのラボ、そして医務室の三か所に設置されています。
一見すると、少々大きめの犬小屋のような造りとなっています。扉は、西部劇の酒場などで使われていますスイングドアとなっている為、頭で押せば開きますし、離れればきちんと閉まります。解放されっぱなしの状態で用を足す羽目にならず、本当に嬉しかったです。
スイングドアを潜れば、センサーが反応して自動で明かりが灯ります。
お手洗いの中は案外広く、便座だけでなく、前足を洗ってくれる装置も完備です。常に清潔を保てるというのも、また乙女としてはポイントが高いです。
ですが、一つだけ、どうしても引っ掛かる部分がございます。
何故用を足す場所が、普通の便座ではなく、アヒルさんのおまるなのでしょうか。
いえ、わたくしも己がシロクマの子供だと理解していますので、普通の便座では踏ん張りづらかろうというリッキーさんの心遣いだとは、ある程度察しております。しかし、だからと言って、何故人間の幼児用おまるを採用したのでしょう。ペット用トイレシートでなかっただけありがたいと思わなければならないと知りつつも、そう疑問を持たずにはいられません。
しかもこちらのおまる、中々高性能なものですから、余計に複雑な心境になるのです。
わたくしが跨れば、どこからともなく流れてくる音楽。まさか、催している音を隠す奴が付いているとは思いませんでした。更に排泄が終われば、勝手に局部を水で洗い、温風で乾かしてくれます。おまるのお掃除も自動です。後は、前足を洗ってくれる装置に前足を突っ込めば終了です。もう至れり尽くせりで、時折わたくし、自分が動物だということを忘れてしまいます。
ですが、シロクマの子供にここまでする必要があるのでしょうか?
それは、他の方も疑問に思ったようです。とある班員さんが、リッキーさんに質問していました。
「なんでここまで凝った便所を作ったんだ? シロクマ用なら、新聞とか敷いた箱でも、その辺においとけばいいんじゃねぇの?」
と。
それに対するリッキーさんの答えが、こちら。
「え……お前、女の子に公開放尿させるつもりなの……? え、変態……?」
全力で引いていました。
わたくしとしましては、シロクマを女として見ている方が、余程上級者な気がしますが。
まぁ、そんなリッキーさんの性癖のお蔭で、わたくしは壁に囲まれた場所で用を足せるのですから、実害がない以上、その辺りは目を瞑ることにしましょう。
実害がありましたら、速やかにレオン班長の元へ逃げ込みますが。
「うぅーおあぁー……」
お仕事がひと段落したのか、徐にリッキーさんは両腕を挙げました。大きく伸び上がり、左右へ上半身を倒します。
溜め息と共に腕を下ろしたら、今度は首を回し、自身の肩を揉み始めました。ですが、左程疲れが取れないのか、眉間に皺が寄っています。
これはもしや、わたくしの数少ないお仕事の時間ではないでしょうか。そう思い、リッキーさんが入っている柵へと寄りました。
やってくるわたくしを見るや、リッキーさんは眉を下げ、困ったように微笑みます。
「シロちゃーん。悪いんだけどさぁ、いつもの奴、やって貰ってもいいかなぁ?」
やはりそうでした。
わたくしは、耳をぴんと立たせ、リッキーさんを見上げます。
『お任せ下さい。微力ながら、お手伝いさせて頂きます』
わたくしが意気揚々と答えますと、リッキーさんは柵の中から出てきました。壁に設置されたコントロールパネルを、ピッピッピと弄ります。
すると、床の一部が反転し、仮眠用のマットが現れました。続けて天上から、枕とブランケットが落ちてきます。
リッキーさんは、わたくしをマットへ乗せ、ご自分もブランケットの上へうつ伏せに寝転がりました。
「じゃあ、シロちゃん、お願いねー」
わたくしの頭を撫でると、リッキーさんは枕を抱え、顎を乗せます。準備は万端なようです。ならばわたくしも、精一杯やらせて頂きたいと思います。
わたくしは、気合と共に鼻息を吹き出すと、まっピンクのつなぎに包まれた体へ歩み寄っていきます。
そして、よっこいしょと、リッキーさんの背中へ遠慮なくよじ登りました。
途端上がる、艶めかしい嬌声。
「あぁんっ。シ、シロちゃん、凄くいいよ。そこ、最高、あぁっ」
『よいしょ、よいしょ』
「あ、も、もっと右……もうちょっと右、お願いします……っ」
『右ですね。この辺りでしょうか?』
「あぁそこっ。そこ、強く、強く踏んでっ。お願いっ」
『強くですか。では……えいやっ』
「はぁぁぁぁぁんっ! いいっ! そこいいっ! も、もう一回お願いしますっ! もっと、もっと強く踏んで下さいっ!」
『えいっ、えいっ、このっ、このっ』
わたくしは、これでもかとリッキーさんの背中を踏んでいきます。凝り固まった箇所を中心に、時に背骨の両脇を狙って往復し、時に首から肩に掛けてを温めるように寝そべり、リッキーさんを盛大に啼かせてやりました。
仕上げに、ピンク頭に伸し掛かり、前足と後ろ足で頭皮をこねくり回します。何とも言えぬ喘ぎ声が、お腹の下から断続的に上がります。
そうして、声さえも途切れ、あふんあふんと吐息しか聞こえなくなったら、シロクマ式マッサージの終了です。
『いかがでしたか、リッキーさん?』
一仕事終えたわたくしは、まっピンクのつなぎから降りました。うつ伏せで震えるリッキーさんの顔を覗き込みます。
すると、リッキーさんの腕が、のろのろと動き出しました。仰向けに転がると、わたくしを引き寄せます。己の二の腕をわたくしの頭の下へ差し込み、うっとりと目を細めました。
「あぁ、シロちゃん……今日も最高にヨかったよ……」
恍惚とした表情で、わたくしの体を撫で擦っていきます。いえ、正確には、ただ毛並みを梳いて下さっているだけなのですが、何でしょう。どうにも意味ありげと申しますか、違う意味合いに思えると申しますか。
わたくしの勘違いかもしれませんが、しかしリッキーさんは、女として見ているシロクマに踏まれて喜ぶ上級者です。万が一という場合もございます。
取り敢えず、いつでもレオン班長の元へ逃げ込む準備だけは、しておくことにしましょう。
そんな決意も新たに、わたくしは疲労感と達成感に満ちる体を、リッキーさんに凭れさせるのでした。
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