【現代舞台の怪奇小説】
「失踪する村、か」
「はい」
警視庁は特例係の部屋。
噂レベルでは数十年前から、そして今回立て続けに発生した行方不明者。それらはいずれも一つの村を舞台にしている。
「発端の行方不明者は大沼景士32歳、最近人気の動画タレントですね。村の噂を耳にしてその検証動画の撮影のため村に向かい、前日の夜に宿で撮影した短い動画をTwitterにアップロード。朝チェックアウトしたのを最後、消息を絶っています。厳密には村に入る瞬間を生配信しようとしていたみたいですが、開始と同時にスマホが地面に落ちて、誰も映っていなかったので……」
「全く、昨今の短慮な科学主義には参ったものだ。曰く付きのものには相応の由縁があるのだというのに、それをやれ非科学的だやれ検証だ、何の準備もできてない素人が気軽に手を出していいものではない」
――――神秘を剥いだ者には相応の神罰が下る。
天上院の魔女が伝統的に説く話だ。両儀院に言わせればそれは呪いや祟りといった言葉の方が適切だそうだが、門外漢には違いが判らないと専らの評判である。
「あとは大体、それに釣られて手を出した連中ですね。まぁ、中には熱狂的なファンで後を追って……というのもいそうではありますが」
「そうだな。ふむ……ちょっと、行ってみるか。お前が」
「えっ、私が? 一人で?」
「その通り、でなければ、何のためにここにいる? 魔法少女シルフィーネ」
■
『ああ、くれぐれも村に立ち入りはするなよ。外回りに留めておけ』
一体それでなんの捜査になるのだろう、というのは兎も角、そう言われて入ってしまう程愚かではない。
「ん~~~……石の1つでも投げ入れてみますか」
足元に転がっていた小石を1つ拾い上げて、やや遠くに見える民家の壁に向かって投げてみる。
「……」
何も起こらなかった。そりゃあそうか、小石ひとつで何か起きる怪異があって……あれ?
「今、なんの音もしなかったよね?」
もう一度、小石を投げてみる。
何も起こらない。
そう、小石が落ちた音1つさえも。もしかしたら、小石が村の中に投げ入れられたということさえも、起きていない……?
「まさか」
怪しまれないよう変身せずにいたけれども、この検証には必要である。
道中の記憶をさかのぼり、両手で一抱え程の岩があったことを思い出した。それを魔法少女の膂力で持って村まで運び、これを投げ入れる。
するとどうだろう。岩は村の領域に入った途端、ほろほろと影が薄れていき、やがて消えてしまった。
「そういうこと……でもなぜ?」
外から入ったものが消える村。人の気配はまるでなく、まるで誰も住んでいないゴーストタウン。
――――誰も住んでいない?
おかしい。それにしては、建物がまるで朽ちていない。それも、この様子では戦後間もない頃から時が止まっているかのような……
「と、取り敢えず、報告・連絡・相談。うん、魔法少女も社会人」
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