猫の手も借りる! 世界大戦 〜黒髪の剣術娘、立身する! 猫とロボと仲間を連れて、世界中の戦争に飛び込みます〜

司之々

戦場で貴方を想う

 夜明けの空を、灰色の雲がおおいつくしていた。


 地上には白いしもが降りて、平野のしげみも、丘陵きゅうりょうの草木も、息をひそめているようだった。


 東と南に海岸と水平線、北と西に山野さんや稜線りょうせん、この遠景の北方の彼方から、ロセリア帝国軍が降りて来る。


 偵察情報によると、海上戦力は戦艦一隻、巡洋艦四隻、駆逐艦十三隻の戦闘艦隊であり、陸上戦力は歩兵三個大隊に砲兵隊と工兵隊を加えた約四〇〇〇名、戦車八十りょうの機械化一個大隊だ。


「とても素敵です」


 風に大きく広がった、長い黒髪を手で押さえながら、ジゼルが微笑んだ。


 18歳を戦場で迎えていた。


 白い将校服の左腰に大太刀おおだちいて、りんとした美しい顔立ちは、まっすぐ北を向いている。


 かたわらに、鋼鉄の巨神像が片膝をついていた。


 全身甲冑にも似た、人体の三倍に及ぶ体格だ。


 両腰に三振りずつの大太刀おおだち、脚部装甲には展開式の動車輪どうしゃりんを収納して、右腕に総身鋼拵そうしんはがねごしらえの大槍を持ち、左腕には近接格闘にも使用できる小型の傾斜装甲けいしゃそうこうを増設していた。


 後頭部から背面に突起状とっきじょう積層装甲せきそうそうこうが伸びて、顔には、牙を持つ白骨はっこつを模した面貌めんぼうが装着されている。


 特殊術式機動兵装とくしゅじゅつしききどうへいそう、試作1番機リベルギントだ。


 数多あまたの戦場を共にした、ジゼルのいとしい伴侶はんりょだった。


 胸部を展開して、操縦者であるジゼルを静かに待っている。脚部装甲きゃくぶそうこうに、そっと左手をえて、ジゼルが北方の彼方を見つめた。


 未だ見えないロセリア帝国軍の陸上戦力中央に、リベルギントに類似した巨神像がいる。


 その胸部内殻きょうぶないかく操縦槽そうじゅうそうに、約束を交わした相手がいる。


「ようやく、この時を迎えることができましたね……ここが最後の戦場です。斬り結ぶやいばの下で、心ゆくまで、互いのことを知り合いましょう」


 世界の片すみのただ一国、フェルネラント帝国が、全ての地上と海洋を敵に回した戦争が、ここで終わる。


 世界大戦が終わりを告げる。


 ジゼルは、ふと、血の匂いを白昼夢のように感じた。


 すぐに現実となる夢だ。


 鮮やかに赤い血が、自分のものか、相手のものか、ジゼルにはどちらでも良かった。


 もう一度微笑んで、ジゼルはリベルギントの操縦槽そうじゅうそうに、白羽しらはねのようにふわりと飛び乗った。

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