第7話:コロウ関攻防戦

 多少のトラブルがあったものの、ニンゲン・エルフ連合軍はドワーフ族とニンゲン族の国境を西に進み続けることに成功する。大小10の砦を抜けた先にはいよいよ、今回の聖戦における最難関の『コロウ関』が高くそびえ立ち、ニンゲン・エルフ連合軍の足を無理やりにせき止めることとなる。


 『コロウ関』は山間の隘路とは言い難いほどの距離を石造りの関所で塞いでしまっている。その長さは全長1キュロミャートル程にも達しているのだ。そして高さは100ミャートル以上もあり、ニンゲン・エルフ連合軍は、馬や飛翔魔法を使って飛び越えることすら出来ないでいた。しかも、かのコロウ関の表面はアダマンタイトによりコーティングされており、エルフ族が頼みとする攻撃魔法の一切を無力化させる構造となっていた。


「投石器用意っ! ありったけの岩をコロウ関に向けて放つでごわす! おいどんの合図と共に一斉発射でごわす!」


 コロウ関の前方100ミャートル先にまで、矢盾を構えつつ、ニンゲン・エルフ連合軍が接近し投石機を設置する。コロウ関からはたいした反撃は無く、あっさりとコロウ関前はニンゲン・エルフ連合軍に陣取られることとなる。それもそうだろう。コロウ関に詰めるのはドワーフ族の兵士は敗残兵を含めて2万なのだ。ニンゲン・エルフ連合軍は易々とコロウ関の前にまで進軍し、邪魔も無く、投石器を1000基、設置し終える。


 そして、ニンゲン軍の軍師:カンベー=クロダの指令と同時に、一斉にその1000基の投石器がコロウ関に向けて、直径1ミャートルほどの岩を放り投げようとする。だが、この時、コロウ関に詰めるドワーフ族の総指揮官であり、首席騎士でもあるブッディ=ワトソンは不気味にほくそ笑むこととなる。


「何ゆえにドワーフ族が造った兵器でコロウ関を攻撃できると思っているのか? それこそ、無知蒙昧と言うものよ……。タイミングを見計らい、自壊させろっ!」


 ブッディ=ワトソンがコロウ関の上からニンゲン・エルフ軍の動きを注視していた。彼はタイミングを計っていたのだ。あの投石器が自分たちを穿つのではなく、それを使用した者たちに向かって牙を剥くことを。そして、それを知らない軍師:カンベー=クロダが右手に持つ軍配を上から下へと振り下ろす。彼の合図と共に、投石器は大きくたわみ、振り子の一端が上方に向かうためのエネルギーを貯め込むこととなり、次の瞬間には蓄えた力を解き放とうする。


「今だっ! 投石器を自壊させろっ!」


 待ってましたとばかりにドワーフ族の総指揮官:ブッディ=ワトソンが部下たちに指示を飛ばす。すると、部下たちは銀色の小箱に備え付けれていた金属製の紅いレバーを上から下に力強く移動させる。それと同時にコロウ関の表面に直径90ミャートルに達する巨大な紋様が100個並び、そこから異様な魔力が放出されることとなる。その魔力は大きなツナミとなり、ニンゲン・エルフ連合軍に襲い掛かることとなる。


 軍師:カンベー=クロダはその魔力の波をもろにかぶることになり、彼はグッ!? と唸りつつ、軽く眩暈めまいを覚え、身体を数秒間、硬直させることとなる。そのため、カンベー=クロダはその次に起きた現象に対して、身体の反応が遅れてしまうことになる。


 魔力のツナミをもろに喰らった投石器が、内側から爆ぜるように崩壊してしまう。さらには振り子に集まっていたエネルギーが前方のコロウ関に向かうのではなく、直上へと放出してしまう。こうなれば、投石に乗っていた直径1ミャートルに達する岩はどこに向かうのか? 答えは簡単だ。岩そのものにエネルギーが集中し、大小5~6個の小岩へと変貌し、さらにはニンゲン・エルフ連合軍の頭上から降り注ぐこととなる。


 こうなるなど、ニンゲン・エルフ連合軍は誰一人想像していなかった。ただでさえ、魔力のツナミをもろに喰らい、数秒間、身体を麻痺させられていた。そんな状態なのに、頭上から次々と岩が降り注いだのだ。これにより、コロウ関の直前にまで集まっていた工作部隊は大きな損害を受けることとなる。投石器を全て失ってしまっただけでなく、工作部隊に多数の犠牲者が生じたのである。こればかりは軍師:カンベー=クロダは右手に持つ軍配を悔しさのあまりに両手でベキッ! とへし折ってしまう他無かった。


「ドワーフ族めがっ! こんなふざけた仕掛けを仕込んだモノを各国に売りさばいていただとぉ!?」


 ニンゲン・エルフ連合軍はコロウ関に達するまでの砦で散々に投石器を使用してきていた。その時は自壊などせずに、問題なく使用できていた。だからこそ、油断していたと言っても過言では無かった。自分たちの作った兵器で、殺される気分はどうだ? と高笑いしていたのだ、ニンゲン・エルフ連合軍は。だが、そう出来ていたのは、擬態に過ぎなかったのだ。ドワーフ族は反撃の機会を虎視眈々と狙っていたのである。


 この結果にはドワーフ族の総指揮官であるブッディ=ワトソンも気分爽快となり、わざわざとコロウ関の上で、音声拡張器マイクを最大音量に切り替えて、高笑いせざるをえなくなる。


「ニンゲン・エルフ連合軍の諸君っ! おめおめと尻尾を丸めて逃げるのなら、今のうちだぞ!? コロウ関はドワーフ族のたくましさを象徴しているのだっ!」


 ブッディ=ワトソンは、はっはっは! と高笑いする。そして、さらに部下たちに攻撃を開始しろと命じる。部下たちは次は銀色の小箱についている蒼い金属製のレバーを上から下へ降ろす。するとだ、コロウ関の上に巨大な機械式の連弩が姿を現す。それを見て、軍師:カンベー=クロダは心胆寒かしらむ。彼の脳裏には数万に及ぶニンゲン・エルフ連合軍の被害がよぎることとなる。


「全軍下がれ! 矢盾を放棄して良いから、下がれるだけ下がるのでごわす!」


 だが、ニンゲン・エルフ軍の後退を許すほど、ドワーフ族の総指揮官であるブッディ=ワトソンは甘くはなかった。彼はすぐに巨大な機械式の連弩を使用するように部下たちに指示を飛ばす。部下たちは連弩の横側にある車輪を縦に回したのだ。すると、連弩にあらかじめ装填されていた丸太のような太さを持つ巨大な矢というよりも槍が次々と、コロウ関の眼前に迫っていたニンゲン・エルフ連合軍に向かって、斜め下に発射されることとなる。


 その巨大な槍が次々と地面を穿ち、土や石を空中に舞い上がらせる。そして、その土や石に混じって、ニンゲン・エルフ軍の兵士たちも舞い上がることとなる。それはまるで地獄絵図であった。先ほどまでは余裕しゃくしゃくといった感じで、投石器の効果はどれほどのモノなのか? と高みの見物の如く期待していたばかりに、ニンゲン・エルフ連合軍の後方に位置する兵士たちは動きがすごく鈍い。そして、最前線から兵士たちが恐怖に陥った表情のままに、一斉にその後方部隊に向かって走ってくる。


 ことここに至り、ニンゲン・エルフ連合軍は恐慌状態へと陥ることとなる。だが、ドワーフ族の総指揮官であるブッディ=ワトソンは、追撃の手を緩めることは一切なかったのであった……。

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