お題【銃】をテーマにした小説
暗い室内に銃声が響く。空虚な破裂音がやたらと耳に残っている。
「見ての通りだ。これは本物の銃……人間に当たれば良くて重傷、悪くて死ぬ」
俺の目の前に座る金髪でガラの悪そうな――銃なんて持ってるのだから事実として悪いのだろうが――男がゆっくりと言い聞かせてくる。
「リボルバーってやつだ。銃の名前とか知らねぇけど……弾丸が6発入る。撃鉄を起こして引鉄を引けばそのまま発射されるが、弾が入ってなけりゃただカチンと軽い音がするだけ。簡単だろ?」
「……そんなこと俺に言ってどうしようってんだよ」
「あー、そんじゃまぁ本題だ。ロシアンルーレットって聞いたことあるか?リボルバーの中に1発だけ弾を入れてからシリンダー――この丸いとこな?ここを回すんだ。そうすると何回引鉄を引いたら弾が飛ぶのかわかんなくなるじゃん?その状態でお互い自分に向けて引鉄を引いてって、何回目で死ぬか賭けるんだ。やろうぜ、オレとアンタとで」
昔見た映画にそんなシーンがあったような気がする。だから何をやらされるのかだけはハッキリイメージできた。だが、何故それを今からやらされないといけないのかがさっぱりわからなかった。
「……なんでそんなことをやらなきゃいけないんだよ。ていうかここはどこで、お前は誰なんだよ!」
混乱と怒りで自然と声が大きくなる。そう、俺はそんなことをさせられる理由もわからないし、何よりそれ以上に
「あー、そういやアンタ……記憶が無いんだっけ?ここに連れてこられるまでの記憶をほとんど?」
「高校を出るくらいまでの記憶はある……そこから先があいまいで、成人以降今まではさっぱりだ」
そう、そもそも思い当たる節どころかその記憶すら無かったのだ。
「めんどくさいなー、これはそもそもアンタから言い出したことなんだぜ?この銃だってお前が用意したものだし、この場所だって手配したのはアンタだ。オレは別に拉致ったりしてないが、車を運転したのはオレだ。アンタは住所だけ教えてずーっと居眠りして、目が覚めたら記憶喪失だ。どっちかっていうと文句言いたいのはオレの方だっつーの」
金髪の男は本当に不満そうにそう言った。覚えていないのだからなんと言えばいいのか分からないが……だが、それならばなんとかここから逃げ出す手段があるかもしれない。死にたくないという必死さが、俺の口を勝手に動かしていた。
「それじゃあさ、止めにしないか?こんなこと。ロシアンルーレットなんてやったらどっちかが死んじゃうし、もし事前に何か約束していたとしても記憶が無い今の俺には何もできない。君だって、無意味に死のリスクを負いたくはないだろう?」
喋りながら考えてるにしては上出来な言い訳だと我ながら思う。だが、どうやら男にはそれが通じなかったらしい。
「ふざけんじゃねーよ、アンタにとっては遊びかもしれねーが俺にとっては意味のあることなんだ。いいからとっとと始めようぜ」
男はそう言うと手際よく一発だけ銃弾を込め、シリンダーを勢いよく回転させるとそのまま自分のこめかみに銃口を当てて引鉄を引いた。
「なっ!?」
「あー、一発目は何も無しか……次はアンタだ。ほら」
こっちのことなど気にすることなく男はこちらに銃を放り投げ、思わずそれをキャッチしてしまう。
「あんた……もしこれで死んでたらどうするつもりだったんだよ!」
怒鳴りつけてみたが、声が震えているのは自分でも分かっていた。そして同時に非常にまずいことになっていることが遅れて理解できた。先手と後手のどちらが高い確率で勝てるのかなんてのは知らないが、やらざるを得ない流れに巻き込まれているのだ。
「その時はその時だって―の。ほら、アンタも早く」
有無を言わせない雰囲気に思わず圧倒される。死にたくはない。今引鉄を引けば1/5の確率で死ぬ。だがやらなければ何をされるか分からない。誰かにやらされているというわけでもないのなら、そもそもこの男は必ずどちらかが死ぬようなギャンブルに対して何故乗り気なんだろうか?そして記憶を失う前の俺は何を思ってこんなことを持ち掛けたのか、そもそもどうやって銃を手に入れたのか、冷静に考えなくてもわからないことだらけで頭がおかしくなる。
「ほら、早く」
怖い、恐い。恐ろしくて怖ろしくてたまらない。それでもいつの間にか俺はゆっくりと銃口をこめかみに突き立てていて、そして
ぱぁん
先ほど聞いたのと同じ銃声だな、なんて他人事のような感想を抱いた。
◇
「バァーカ、自分から誘っといて結局自分で死んでんじゃねぇか。いやマジで何したかったんだよテメェ?」
死体に向かって吐くにしてはそれなりの暴言だ。だがまぁ今回に限ってはこれくらい言っても文句を言わせない程度には向こうの落ち度があると思う。
「いやぁー……ごめんごめん、今になってようやく全部思い出したんだ」
間もなくして死体がむくりと起き上がる。その目は、いつも通りの胡散臭い目に戻っていた。
「んで、結局なんで記憶喪失になってたんだよ?ロシアンルーレットに誘った理由と併せてしっかり教えろよな」
ずっと解消できなかった疑問をぶつけると、元死体はへらへら笑いながらしゃべりだした。
「決まってんだろう?夜のバーで偶然出会った不死者2人、と来たら相手のことを殺してあげたくなるのは人情ってもんだ。アンタに掛けられた呪いの中に自殺できない呪いがある、なんていうからさぁ。ロシアンルーレットにしたら殺せるかなーって。記憶を消したのはわざとだぜ?全部知って仕組んだら自殺ほう助にカウントされるかもしれないからな」
「そんで結局お前が死んでんじゃねーか!」
すっかり傷が治っている黒髪の男はへらへらと笑いながら微塵も誠意の感じられない謝罪を告げ、それを見ているうちにすっかり色んなことがどうでも良くなってしまった。
「ったくよぉ、もう生き返ってんだろ?汚れ落としたら飲み直しに付き合えよな」
「ハイハイ、敗者は勝者に従うのみってね。いやぁそれにしても羨ましいねぇ……」
黒髪の男は手に握られたままだったリボルバーをまじまじと見つめながら呟いた。
「人間は、こんなもんで死ねるなんてさ……」
「あー、あとオレ別に死にたがってねぇぞ?あと300年くらいは人間社会に溶け込む予定だし」
「え、マジで!?そういうこと先に教えてくれよなー」
お前が何も聞かないで誘ったんだろうが、と言おうとしてその言葉を飲み込んだ。奇妙にも程がある出会いだったが、それでもなんだか新しくできた飲み仲間の存在が少しうれしく思えてきていた。
<了>
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