お題【イマジナリーフレンド】をテーマにした小説
「ほんとにさぁ……そろそろいなくなってくれてもいいと思うのよ?私的には」
私は今、自分の部屋の中パジャマ姿でくつろぎながら独り言を呟いている。少なくとも、客観的にはそう見えるはずだ。
『でもさぁ……ここまで来ちゃったらそろそろ一生付き合う感じになりそうじゃない?』
けれど主観的にはそうではない。私は今、一人の少女と会話している。私と同じくらいの年で、丈の長いスカートと長袖のセーラー服に身を包んだ女の子。名前はリサ。私にとって今の呟きは独り言なんかではなく返答を期待した問いかけ、或いは愚痴だ。
イマジナリーフレンド。小さな子供が存在しないはずの友人がいるかのように信じ振舞う現象であり、同時にその中に現れる存在のこともそのように呼称する。読んで字のごとく空想上の友達、ということだ。
なぜそんな話をしているかと聞かれれば理由は簡単。私、
「いやよ!一生って一生なのよ?私に将来彼氏が出来たり、結婚したり、SEXしたり、そういうことしてる間もずっといるつもり!?」
『いやぁー……流石にそういう時は目を瞑りますよ?』
「いるんだって思うだけでだいぶ気が散っちゃうのよ」
わかってる、これはただの八つ当たりだ。イマジナリーフレンドというものは主に子供の発達過程で生じる珍しくもない現象だけど、私くらいの年齢までそれが見え続けているというのは結構なレアケースらしい。そんなことで運を使うくらいならライブチケットの抽選を当てる時に発揮されてほしいものだけど、今のところその見込みはない。
『ていうかさ、友美はやっぱ消えて欲しいと思ってるわけ?私のこと』
「……えぇー、それ聞く?」
ハッキリ言ってしまえば、リサのことは嫌いじゃない。イマジナリーフレンドだけあって私のことは誰よりもわかっているし、現実の友達と話すよりもよほど楽しいことだってある。テストの時に忘れてた公式を思い出させてくれたりもするし、誰かに話しにくいような愚痴を溢せるのは今のところ彼女くらいだ。だけど、ううんだからこそ、リサにばかり頼っていてはいけないのではないか、と思う私がいる。
「リサのことは嫌いじゃないわよ。そりゃあさっきはああ言ったけど、私がリサに本心から消えて欲しいなんて言うわけないじゃない。消えて欲しいって言うのはそう、私が成長するためにはそれが必要なんじゃないかって思っちゃうのよ」
『あー、わかるわかる。ていうか友美の考えてることは全部わかる。イマジナリーフレンドだし』
「だったらわざわざ聞くんじゃないわよもぉ。とにかく、高校にもなってイマジナリーフレンドがいるだなんてなんかこう、大丈夫なのかなって不安になっちゃったの」
リサはしたり顔でうんうんとうなずいている、いい気なものだ。それとも私自身、リサが消えてもいいと思うほど成長とやらを重要視していないということなのだろうか。けれどもどうしても、普通の人には見えないモノが見えているというのは気になってしまう。
『いっそのこと、もうずっと一緒に付き合ってくこと前提に考えてもいいんじゃない?』
気楽に言ってくれる。そういうわけにもいかないかもしれないから悩んでるんじゃないか。と文句を溢しそうになったその時不意にこんこん、と部屋をノックする音が聞こえた。
「はーい」
反射的に応えてすぐ、リサに隅に行くようアイコンタクトを送る。こういう時のリサの動きは早く即座に口を閉じてから私の視界に移りにくい位置まで退避してくれた。ドアが開いてお母さんが入ってきたのは、それとほとんど同時だった。
「まだ起きてたの?明日は朝早いんだから早いとこ寝ちゃいなさい」
言われて時計を確認すると時間はもう23時、いつもなら普通に起きている時間だけど今日に限ってはもう寝ておいていい時間だった。はいはいと適当な相槌を打ちながらベッドに向かう途中、お母さんは壁に掛けられたセーラー服を見つめて少し悲しそうな目をしたことに気付いてしまう。
「お母さん、どうかした?」
「え?ああ、セーラー服見てたら友美のお姉ちゃんのこと思い出しちゃってね……」
「お姉ちゃん……?」
それは不可解だ、なにせ私は生まれてこの方一人っ子、リサのおかげで寂しくはなかったけど少なくとも姉や兄がいたことは無いはずだ。
「そりゃ友美は知らないわよ、流産しちゃったからね。ただ、もしあの時流産せずに生まれていたらきっと今頃それと似たような制服を着て学校に通ってたのかなって、急に思っちゃったの。なんでかしらね?」
少し寂しそうに、けれど優しく笑うお母さんを見てふと、私はリサのいる方を振り向く。考えたことがある。もしリサがイマジナリーフレンドではなかったら?例えばそう、イマジナリーフレンド以上に非科学的ではあるけれど
「お母さん、もしそのお姉ちゃんが生まれてたら、付ける名前の予定とか決まってた……?」
私に近い人間の幽霊、とか。そう思ってリサを見る。リサは申し訳ないような何か言いたそうな、普段からは想像もつかないくらい深刻な顔をしている。お母さんがいるのだから話したりはしないだろうが、それでももしかしたら――
「そうねぇ、あの子の名前は……
「……リサ、とかじゃなくて?」
「リサ?誰それ」
もう一度リサの方を見る。リサは愛想笑いをしながらボディランゲージで「ごめんね」と伝えている。
「……ううん、なんでもない。おやすみ」
そのまま無言でベッドイン。起きた時には朝になっていることだろう。
『ごめん!ごめーんって!いやあなんか色々タイミングが重なったからちょっとドッキリ決まるかなーって思ってさー!』
騒がしく叫ぶ
了
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