お題:【スタンド】をテーマにした小説
私の名前は
さて、そんな私には今二つの悩みがある。その一つがストーカーだ。入学式の少し前あたりから視線を感じるようになって、その時は勘違いだと思っていたけど、いつの間にか人の気配が少しずつ自分に近づいているのを感じていた。登下校だけじゃなく、家族や友人、或いは一人で出かけるときは必ずその気配を感じる。そのせいで最近は一人で出歩くこともめっきり無くなってしまった。その気配が、とうとう今になっては私の傍にいるのだ。比喩ではない。ストーカーは3日前から私の真横に立つようになった。
あまりにも大胆過ぎて最初は何も言えなかった。友達の
ちらり、と一瞬横目でその姿を確認した。見た目は普通、どころかむしろカッコいいと言ってもいいくらいだ。身長は少なくとも180㎝は超えている、体格は服を着ていてもわかるほどに筋肉質で、真っ青なスーツに刈り上げた黒髪と黒縁眼鏡はストーカーという実態とはかけ離れていて、寧ろ真面目なサラリーマンと言った風体だ。仮に普通に告白されたならばOKしてしまいかねないほどの美丈夫だが、その視線はこちらではなくまっすぐ前を見つめている。意味が分からない。ストーカーなのだから見るべきは私なのではないのか?いや見て欲しいわけでもないのだが、とにもかくにもあらゆる要素が私のイメージするストーカー像からかけ離れていて、それが余計に怖かった。
そしてもう一つ、私には悩みがある。真横に立つストーカーを超える悩みなんてそうそう無いと思っていたのだが、できてしまったのだからしょうがない。その悩みの種はいま、まさに私の目の前に立っている一組の男女だった。
「フフフ……まさかこんな近くにこの
おそらく私と同じ高校生だろう、近所にあるお嬢様校の制服を着ている。身長は私より少し低いくらい、ゆるくパーマのかかった金髪に青い瞳は西洋人形にも似た可憐さと意志の強さを兼ね備えている。そんな、普段ならば同性でありながら見惚れてしまいそうな程の少女が今、白いスーツを着た長い黒髪の男を引き連れて私の前に立っている。否、そこで私は気付いてしまった。その男は決してボディガードのように少女に付き従っているのではない。私のストーカーと同じように、彼女の真横に立っているのだと。
「あの……スタンドってもしかして、この?」
私は恐る恐る真横のストーカーを指さし、彼女は無言で首肯する。あまりの事態に私は頭を抱えたくなったが、なんとかその衝動を堪えた。
「あのー、この人はストーカー、なんですけど……」
「そんなに堂々としたストーカーがいるわけないでしょう?」
その通りだ。全くもってその通りだ。私が当事者でなければうんうんとうなずいていただろう。だがそうではないのだ。
「そもそもあなた、ストーカーの語源を知っていらして?」
「え?えーっと……」
「Stalk……忍び寄る、追跡するという意味の動詞にerを付けることでその行為者を、すなわち付きまとう人のことを指すようになったのですわ。ならば私の隣に立つこの人は
少女は私の答えを待たずに解説する。いや、その理論だとスタンダーになるんじゃ……?
「故にスタンドを持つ者のことをスタンド使いと呼ぶのです。そして、1つの街に2人のスタンド使いは不要……」
「いや、ストーカーは犯罪なので0が望ましいと思うんですが」
「初対面の相手にこんなことを言うのは気が引けますが……あなたのスタンド、潰させていただきますわ。やりなさい!
「
あらゆる意味で理解が追い付かずパンク寸前の私を置いてけぼりにするように目の前の男、
「ストーカーさん!」
「フフフ、どうやらスタンドを手にしたばかりだったようね。とんだ肩透かしだわ」
私の――いや私のではないのだがややこしいので便宜上こういう言い方をする――ストーカーは勢いよく吹っ飛ばされ、そのまま地面にうずくまってしまった。
「自分のスタンドの名前も知らないようでは、とてもじゃありませんがスタンドバトルなんてできませんわ」
いやそりゃあ普通自分のストーカーの名前なんて逮捕された後警察から聞かされるくらいでしか知りようがないだろうし、知りたいとも思わない。
「翔子……さん……」
その時、私のストーカーが口を開いた。え?ていうか私の名前を普通に呼ばれるのやっぱキモイ。見た目でカバーできない気持ち悪さがそこには存在していた。
「私の名前は……
理解が追い付かないというよりは一切理解したくない、脳容量の1ミリたりともこの一連の事件に割きたくないのが本音なのだが、しかし不思議な威圧感が私の口を動かしていた。
「
私がその名を呼んだ瞬間、
「無駄ァ!」
「オラぁ!」
「どうやら、これからが本番のようですね。面白くなってきましたわ」
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
「オラオラオラオラオラァ!」
二人のストーカーが繰り出すパンチは時に空中でぶつかり、時に相手の肉体にダメージを与える。長いようで短い時間、何度も何度も殴り合いを続け、そうしてしばらくしてから
「無駄ァ!!!」
「初めてのスタンドバトルでこれほど……見事ですわ」
「もしもしポリスメン?変態を3人ほどしょっ引いてもらえません?」
こうして3人の変質者は警察に連れていかれた。ついでに私も事情聴取で連れていかれた。おかげでその日の学校は欠席扱いになり、密かに皆勤賞を狙っていた私の思惑は早々に打ち砕かれてしまった。
それからという者のストーカーは私の前から姿を消し、ようやく平穏な日々が帰ってきた。私の高校生活は、もしかしたら今ようやく始まったのかもしれない。
ただ一つ、不安があるとすれば別れ際に
「スタンド使いは……引かれ合う」
了
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