1時間ずっと戦闘描写を書き続ける

 鋼の翼が、巨きな船が、或いは人が無数に蒼空を翔ける。そしてそれ以上の鋼が炎と煙を噴き上げて落ちていく。鋼と炎の戦場を、一人の男が流星のように飛んでいた。


「レイザー隊長、こちら指令室。前方に大型戦闘艦1機と中型航空戦闘機4機、それに攻撃用ドローン30機が接近しています。いずれも無人」

 

 通信機は淡々とした女性の声で戦況を告げ、男もまた無感情に返す。


「俺以外の機甲空兵は全員下げさせろ。15秒後に攻撃する、45秒後にレーザー給電を頼む」

「了解」


 機械の鎧と翼で武装した兵士、レイザーは通信を終えると、両手で剣を持ち真っすぐに敵の軍勢を見据える。

 彼我の戦力差は圧倒的。単純な物量の面で言えば軍と軍を比較した時点で負けており、この場面だけに限ってもAIコントロールの兵器と武装した人間では勝負にならない。

 故に、必要なのは勝負をしないことジャイアントキリングによって戦力を削り勝負にならない戦いを勝負になる戦いに変える。それが自身の為すべきことだとレイザーは分析した。


>EXEC_SWORD_SECTOR/CODE_EXPANSION/.


 言葉ではない言語を以て唱えるのは機械の呪文。剣は発光によってそれに応え、瞬間的に前長約100メートルの光の刃を形成する。狙うはバッテリーの8割を消耗する、現在使用可能な最大火力の大斬撃だ。


「食らいやがれ!」


 咆哮と共に放たれた一突き。次いで渾身の力を込めた薙ぎ払い一閃。人間の理術に基づいた攻撃は人外の兵装を通じて大型戦艦を轟沈させる破壊力を生み出し、その余波によって随伴機の7割を壊滅させた。


「うっわ相変わらずえぐいっすねー、流石隊長。よっ、人類最強!」


 先程とは異なる、軽薄そうな男の声が通信機から聞こえる。レイザーにとっては聞きなれた声だ。


「はしゃぐなクリス。俺は今ので充電を粗方使い切った、残りはお前らで殲滅しろ」


 りょーかい、という声を残して通信は切れた。クリスはレイザーが率いる機甲空兵部隊の副隊長、声同様に軽薄な性格には難があるものの、実力に関して言えばレイザーは高い信頼を置いている。あと27秒後の給電を受けるため一時後退を試みたレイザーは、その瞬間嫌な物を視界に捉えた。


「こちら指令室、ドローンの生き残りに1機、接近戦特化タイプが紛れています。本隊に接近される前に対処するべきかと」


 通信機の声に解答を出すように、残骸の群れから攻撃用ドローンが1機飛び出した。接近戦特化タイプ、速くて堅くて嫌な敵だ。


(給電まで待つ余裕は無い、現状の武装で仕留めるしかない、か)


 部下だけでも対処不能なわけではないが、新兵を少なくとも3人は殺される。経験則からそう判断したレイザーは、応戦の覚悟を決めると剣を背部ウエポンラックに格納し、代わりに作業用のスコップと対人ライフルを構える。


「指令室、給電を早めてくれ。電力は30%でいい」

「了解」


 通信を終えてはじめに行ったのはライフルによる射撃。人体を抉るには十分な火力でも、機械の装甲には掠り傷すら残せない。それでいい、今必要なのは相手のターゲットをこちらに向けさせることであり、目論見は見事成功した。

 機械にとっては当然の戦況判断。攻撃手段も有しない機甲兵は遠隔給電によって即座に戦線に復帰するおそれがある。倒せる内に安全な殺戮を、そのための最短距離を最速で駆け抜け格闘兵装を使用して生命活動を停止させる。幾多の戦場で幾億の試行に基づいて形成されたマニューバは瞬きの間にレイザーへと迫り


(予測通り)


 レイザーはドローンの動きを観察し、攻撃行動に移る直前にスコップを手放しながらブースターを起動し回避行動を行う。狙うはひとつ、相手の速度を利用した事故。レイザーの予測通り真っすぐ突っ込んできたドローンは、吸い込まれるようにドローンに向かい、そして、当たり前のように急旋回してレイザーへと追撃する。

 ドローンのマニューバは当然、このような悪あがきにも備えてある。各部品に一切負担をかけないような滑らかな動きでレイザーへと向き直り、同時に攻撃手段を変更する。格闘から機銃を使った射撃へ、AIが選択した最適な攻撃行動は的確にレイザーを照準に捉え、そして


「3、2、1、ちょうどだ」


 超長遠距離から放たれたレーザーがドローンを捉え、跡形もなく破壊した。レイザーの狙いは初めから手持ちの武器による撃破ではなく、自分めがけて飛んでくる給電用レーザーを利用することだった。結果、レイザーは狙い通りに敵を誘導し、最小の武装による撃破に成功した。


「こちらレイザー。指令室、すまないがレーザー給電をもう一度頼む。今度は50%でいい、とりあえず一旦本隊と合流することにした」

「了解、ところで今の給電はどうしたのですか?」

「すまん、敵を倒すのに使い切っちまった」

「え?もうですか?あの、レイザー隊ちょ……」


 追及を避けるため多少強引に通信を切る。レイザーは大層な呼び名がまだしばらく続くことを想像し、顔を顰めながら蒼空を睨んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る