第二十ニ話 高校三年順子、発見

 紗栄子からの電話は途中で切れた。順子の声が紗栄子に「電話切れ」と言っていたのを聞いた。美久がいたのはいつもの分銅屋だった。紗栄子以外、全員いる。「みんな、紗栄子から電話で、智子が拉致られたって言ってきた。あいつ、順子と一緒だ。順子の電話からかけてきた。順子と組んで智子を助けるつもりだろう。紗栄子のアイフォンは電池切れだ。隅田川沿いの廃工場にいるって。康夫や三人組や浩二たちがいるかもしれないってことだ」


 美久が話している途中で、楓はもうカバンからパソコンを出していた。ウィンドウズの立ち上がりの遅さにイライラする。画面が出ると、追跡ソフトを立ち上げた。紗栄子さんのアイフォンは電池切れだから、トラッカーよね?


 マップが出た。まず、順子のマンション近くのビルの位置が出た。ジワジワと移動経路の線がのびてくる。このビルに数時間いて、それで、墨堤通りを行って、区立千寿小学校前を通って、墨堤通りと日光街道が交差する千住営元町の交差点で右折して日光街道、日光街道が京成本線の下を通過する手前で右に折れ、京成本線千住大橋駅のガード下を通って右折。ポンタポルテ千住の横を通って、隅田川沿いの工場でプリップする光点が止まった。ここだわ!

 

「美久お姉さま、ここよ!」とパソコンの地図を美久に見せた。走り出そうとする美久の手をタケシはつかんで止めた。「美久ちゃん、今日は一人で殴り込みはダメだよ」と言う。「女将さんはここで連絡役です。他のみんなは?」とタケシが聞くと、偶然洋服姿の節子が「私は行くよ」と言う。佳子も節子の横でうなずく。自衛隊組は「美味しい話を逃すかね?」と行く気満々だ。タケシはカエデに「カエデは女将さんと残れ」というと「なに言っているんですか。紗栄子さん拉致されて、私がほっておけますか。当然行きます」と言う。


 節子がもう外に出て、タクシーを呼んでいる。「七人だから、二台だ。ほら止まれ!止まれ!」と強引に二台止めてしまう。先導するタクシーにパソコンを抱えた楓と美久とタケシと佳子。後続のタクシーに節子と自衛隊二人。節子は運転手に前の車についてって!と言った。

 

 楓は、パソコンで廃工場への最短経路をだして、運転手に道順を言う。「運転手さん、日光街道に出て、京成本線の千住大橋駅までまっすぐ行って!ガード下くぐったら、右折してかつら並木通りをまっすぐ!ミズノフットサルプラザの近くよ」とフロントシートで運転手に怒鳴る。「お嬢さん、何を興奮してるの?」と運転手が楓に聞く。「友達が半グレに拉致されたんですよ。助けに行くんです!」と答えると、「そりゃあ、大変だ!スピードあげるぜ!」と言って、運転手はアクセルを踏み込んだ。

 

 あ!警察にも連絡!と楓は、110に電話する。テキパキ経緯を説明して、廃工場の場所を言った。119番にも連絡した。リアシートでは、佳子が今まで美久に内緒にしていた紗栄子の話をしていた。


「クッソォ、なんで私に言わなかったんだ。チクショー!紗栄子を一人で行かせちゃダメだろう!」と佳子を珍しくなじる。タケシが「美久、佳子さんをなじるな!みんな美久のためを思って内緒にしてたんだ。それに今それを言ってもしょうがない」「クソォ、タケシさん、悔しい!紗栄子は拉致られるの二度目だ!」「わかったから落ち着け、美久」とタケシは美久の頬を叩いた。涙ぐむ美久。


「カエデ、紗栄子と順子が工場に着いてからどのくらい時間が立ってる?」とタケシが聞いた。「えっとね、ちょっと待ってね」とスリープから立ち上げたパソコンを睨む。「四十五分よ!」「まだ、それほど経ってない。まだ、間に合う。美久、まだ間に合うぞ!」と美久に言う。「紗栄子、待ってろよ」と歯ぎしりをして美久が言った。


 ミズノフットサルの横でタクシーを止めた。気付かれるとマズイかも、と美久がいったからだ。タケシが五千円札運転手にわたす。お釣りは取っておいてと言い捨てて、タクシーを降りた。

 

「お兄、まっすぐ行って、右に曲がって。工場の正門が100m先にあるはずよ!私は節子さんたちを待ってる」とパソコンを抱きかかえながら言った。すぐ二台目のタクシーも着いた。「節子さん、こっち、こっち」と楓が先導するタケシたちを追った。


 工場の正門で一同が止まる。紗栄子はどこにいる?「お兄、近いわ。右に行って!たぶん工場のドアがあるはず」

 

 彼らは工場を回り込んで、紗栄子がぶち当たった鉄扉を見つけた。鉄扉を開く。左手に開け放しの事務所から明かりが漏れていた。ちょうど、浩二が順子を抱えて、対面の工場の鉄扉を抜けるのが見えた。「カエデ、佳子と一緒にこの事務所を見てみろ。ぼくらはやつらを追う。様子を見て後からついてこい。気をつけろよ」と二手に分かれた。

 

 楓と佳子が事務所に入ると、紗栄子が横たわっていた。佳子が駆け寄る。紗栄子の意識がない。恭子と敏子と恵美子にさんざんに蹴られたのだ。セーターとストレッチジーンズのあちこちが破れている。虫の息だ。


 楓が離れたところに倒れている智子と女子大生に駆け寄る。衣服が乱れ、下半身は下着も剥ぎ取られている。よだれを垂れ流し、失禁し、痙攣ている。呼吸音も細い。こっちも虫の息だ。楓は衣服の乱れをできる限り直してやって、佳子の傍に行った。


「佳子さん、智子さんも他の女の子も意識がないわ。覚醒剤ってやつをいっぱい打たれたのかしら?ひどい状態だけど、私たちにはどうしようもないわ」と楓は言った。


「紗栄子もひどい有様だ。さんざん殴る蹴るをやられたようだよ。外傷はあまりないけど、こういう場合、内蔵がヤバいかもしれない。こっちもどうしようもない。救急車を待つしかない」と佳子。


 救急車が来るまで楓と佳子にはどうしようもないのだ。「楓ちゃん、ここにいても私たちには何もできないわ。兵藤さんたちもヤバいかもしれない。こっちは人数が少ない」と楓の顔を見て考えている。「ヨシ子さん、救急車はまだ時間がかかるかも。タクシーの中で連絡したからまだ十分も経っていない。まだ来ないわ。向こうに加勢しましょう」と楓が言った。パソコンは紗栄子の傍らにおいて駆け出した。佳子も後を追う。

 

 

 グラウンドに出たところで、浩二の腹を蹴って、自由になった順子は、康夫たちの前に立ちふさがる。


「康夫、よくも私を裏切ってくれたね」と康夫に怒鳴った。


「ケッ、順子、気づかなかったろう?恭子も敏子も恵美子も俺がやっちまったよ。敏子は俺の昔からの女だ。おまえに内緒でな。恵美子はだれにでもケツをふる。もちろん、俺にもな。恭子は手こずったけどよ、レズなんかより男のほうがいいのを教えてやったさ。しこたまS食らわして犯してやったよ」

「おまえと違って、恭子はいいぜ。メンヘラ入ってるしよぉ、ヒィヒィ言うんだ。ロリ面で、泣いてしがみつくからな。恭子は敏子にはサドだが、俺に虐められるとドMだよ、それも超弩級の。こいつ、頭おかしいぜ。可愛いけどな。四人でやりあうんだ。たまんねえぜ。おまえの三人組はド変態だよ。美久のところの真面目な三人組と大違いだ」

「ハーレムだ。俺と三人、よろしくやってたよ。おまえに内緒で。Sを流せるのは俺だからな。こいつら三人、俺のヤクが必要ってわけさ。まあな、順子、おまえよりもほんとうは美久とやりたかったけどな。おまえよりもずっと上等そうだしな。でもな、今は恭子でいいや。俺の言うままだから。おまえと違う」

「おまえがいなくても、恭子がいれば女は手に入る、おまけに恭子がレズを卒業して、おまえのオジサマを相手にしてくれたんで、おまえはいらなくなったんだ。おまえのオジサマ、おまえに飽きたそうだ。おまえ、気が強いしな。それに比べて、男さえ相手できれば、恭子の体はロリ好きのオジサマ達にはたまらねえんだとよ。こいつガタイが小さいから、おまえよりもずっと締まりがいい。最高だよ、こいつは」


 順子は裏切られて、三人組の前でズタボロに言われて、プライドがガタガタだ。「言うことはそれだけかい?この野郎、あのな、康夫、おまえ知らないかもしれないが、紗栄子が、近くのビルの屋上から智子や他の女の子の売りの動画を撮影してたんだよ。さっきのおまえと智子の動画もバッチリさ。私も見てたよ。そのデータは送っちまった。おまえらの乱交場面も盗撮してたんだよ。ポンプでヤクをおまえらが打って、ラリッておまえとそこの売女三人がケツふっているのもバッチリな。アホが。その動画のデータは美久がもってるぜ」とハッタリをかます。


 順子は康夫と三人組の乱交場面以外紗栄子に見せられていない。智子以外の他の女の盗撮動画があるかどうかも知らない。智子と康夫の動画はいま撮影したばかり。紗栄子のカメラバッグは乗り捨てたバイクの近くの茂みに隠してある。美久はデータを持っていない。


「なんだと?このビッチが」と康夫は順子に殴りかかった。康夫のパンチを数度順子は受けたが、最後のパンチを順子はかわして、康夫のわき腹を殴りつける。怯む康夫に回し蹴りをぶち込む。ざまあみろ、と康夫に美久ばりの踵落としをみまった。康夫は思わずひざまずいた。「ふん、踵落としは美久の専売特許じゃねえんだよ」そこに、恭子、敏子、恵美子が順子にかかって行く。


 敏子と恵美子は弾き飛ばした。思いっきり蹴りを食らわせる。だが、順子は油断した。チビとあなっどっていた恭子が順子の腹に頭からぶつかっていった。プロレスのスピアーをかましたのだ。しまった、こいつ、プロレスやってたんだ。腹を押さえてうずくまる順子。


 タイマンなら順子も負けないが、工場の中でも乱闘していて、体力が落ちている。それに、さすがに恭子のスピアーは効いた。ガタイの大きな敏子に羽交い締めにされて、恭子に腹をしこたま突かれる。ぶっ飛ばされて倒れたところを恵美子に頭を蹴られた。三人で順子の腹を蹴り上げた。順子は意識を失った。「順子ネエ、よっわ~い。わたしが順子ネエのお次だよ。もう、順子ネエ、いらないもんねえ」と恭子が言う。康夫はよろよろと立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る