(仮)ネトエンゾ

神帰 十一

第1話 付喪神

 

 付喪神を知っているか?


 永い歳月を経た、物や道具に御霊みたまが宿り、それが良い御霊みたまであれば神となり、悪い御霊であれば妖となるだ。

 人智の及ばぬ存在であり、付喪神が何かと問われれば、何とも答えられぬ以上、至極 最後は。そう表現するしかない。

 私は浅学の身である。深く詳細な話しは、柳田先生やミズキ先生などの、歴々たる方々にお任せするとして、けれども、では御霊とは何なのか? それを語れるくらい書物を読んだ自負はある。なので語らせてもらう。

 

 御霊とは、言わば人の想念だ。

 その物に憑くのは、人の妄念だ。

 

 例えば、長く大切に使われていた櫛に、使い手の想いが宿れば その櫛は、付喪神の受け皿として 支度が整ったことになる。人が亡くなると その魂は人の……、人を人たらしめている部分を捨て、純然たる一個の霊魂れいこんに還り、しばらくはその辺りを漂うが、その時やはり、元の想いが宿った物に引かれやすい。そうして憑いて生まれるのが付喪神である。言うまでも無いが、憑く喪神とも書くアレである。

 

 –––––––––だから、形状は櫛であっても、その内なる性質は生きていた頃の使い手の性分が反映され——— である。なので妖は固定の形状を持たず、地域によって————云々。


20××.12.11

東正大学 社会学部 文化人類学科 

準教授 大崎 裕


 

 野 香は物憂げに画面を指で弾いて、文章を一気に下までスクロールさせた。肩で大きくため息をつき、仰向いて 背もたれに体重を預ける。

 

「……ギシリ」

 

 あまり高い物では無い、ワーキングチェアが不満の声を上げた。

 香も不満げな顔して、画面を変遷させる。画面には次のお題である『凍えるほどにあなたをください』と言う文字が顕れ、黒く無感情に並びながら 香を見た。


「はぁ、せっかく本を出せたのに……」

 

 香はweb小説家であった。

高校生の頃に、とある投稿サイトで、さんと言う人の詩を読んで感銘を受け、真似事で香も詩を投稿し始めた。

 最初は誰も読んでくれなかったが、香は大して気にせず投稿し続けた。

 元々、内気で他人との接触が少なかった香は、他人からの反応というものに頓着しない性分だった。誰が読んでくれなくても、詩を投稿している。と言う 行為そのものを楽しめる素質があったのだ。

 要するに陰キャと呼ばれる者である。


 そんな香に転機が訪れる。

ある日 学校に行くと、どこからバレたのか、黒板に昨日 投稿したばかりの詩が大きく書き出されていたのだ。

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