「初めての相手が君でよかった」「ん? ほかのやつともヤるつもりってこと?」

館西夕木

初夜を迎えたカップルがその日のうちに別れる確率はだいたい五十パーセントらしい

 1




 郊外に佇む、ラブホテルの一室。


 隣で幸せそうに微笑む彼女を見て、まことも同じように笑顔を返した。


 火照った体に汗が浮かぶ。


 二人の体液で湿ったシーツの上で、抱き合いながら愛の言葉を交わし合う。



 付き合い始めて一か月。


 二人はようやく初夜を迎えた。

 互いに初めて同士で、始まりはとてもぎこちないものだった。


 どうしていいか分からないながらも、本能のままに体を重ね、相手の体をむさぼり、最後は二人して何度も何度も達した。


 初体験は、とても満足のいくものだった。


 そして事後、快楽の余韻に浸りながら交わすピロートークの最中に、は起きた。


「どうだった?」


「気持ちよかったよ。誠もいっぱいイってたね」


百合ゆりだって」


 愛おしそうにこちらを見つめる彼女――百合はこう続けた。


「初めての相手が君でよかった」



























「……ん?」



 2



「ちょっと待って、百合」


「なぁに、誠」


 百合の言葉が心の中に引っ掛かった誠であった。


「それってさ、他のやつともヤるつもりだってこと?」


「はぁ?」


「いやだってさ、『初めての相手』って言葉は、『二回目以降の相手』も想定してないと出てこないよね?」


「いきなり何言ってんの?」


「いやそうでしょ」


 甘々な空気が、徐々に張りつめていく。


「だってさ、百合がその、セッ……えっちするのってこれが初めてなんだよね?」


「そうよ。その相手が誠でよかったって言っただけじゃない」



「だからぁ。よく考えて見なよ。いい? 例えば生まれて初めてラーメンを食べた人がいたとして、そのラーメン屋さんがめちゃくちゃ美味しくて、『初めて食べるラーメンがこの店でよかった』って心の底から思ったとする。で、ラーメンの美味しさを知ったその人は、初めて食べたラーメン屋さん以外のラーメン屋さんにも行くようになるんだ」



「いろいろ突っ込みどころが多すぎる。っていうか、例えが下手すぎ。セックスとラーメンを同じ扱いにしないでよ」


「それと同じだよ。つまり、ラーメンの美味しさを知った百合は、これから色んなラーメンを食べに行くんだ」


「こっちはまずラーメンのくだりから理解できてないんですけど」


「ほら、ボロが出た」


「は?」


「百合、さっき、えっちのことをセックスって言ったよね?」


 誠は得意顔を作る。


「それがなんなの?」


「それはつまり、百合の中でセックスのハードルが下がっているなんだ」


「はぁ?」


「ついさっきまでは行為そのものを恥ずかしがってたくせに、気持ちよさを知った途端これだ。あーやだやだ、これだから巨乳は淫乱なんだ」


「誘ってきたのは誠じゃない。っていうか、そっちこそ浮気するつもりなんじゃないの?」


「は? は?」


、人の言葉に敏感になるんじゃないの?」


 百合は今にも泣きだしそうな目をして、


「この前、食堂で一緒にご飯食べてた女誰よ」


「この前?」


「先週の金曜日よ」


 誠は記憶の紐を辿る……


「あっ……いや、あれはただの友達で……」


「友達? 人前で平然とあーんするのが友達だって言うんなら、私は本当の意味で友達が一人もいないのね。しかもその後手を繋ぎながら歩いてたじゃない」


「違うんだって。あれは子供の頃から一緒に遊んでた幼馴染みたいなもんだから。愛してるのは百合だけだ」


「本当?」


「じゃなきゃ、こんなとこ来ないもん」


「誠……」


「ごめん、変なこと言い出して。その……百合ってすごく綺麗で可愛くて、いつか別のヤツに盗られちゃうんじゃないかって、不安になったんだ。ごめん」


「いいのよ。こっちも過敏になっちゃって、ごめん。私も誠だけを愛してる。ずっと、これからも」


 二人は改めてベッドの上で絡み合う。


「もう一回、する?」


「うん」




















「誠、好き」


「あたしも好きだよ、百合」


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「初めての相手が君でよかった」「ん? ほかのやつともヤるつもりってこと?」 館西夕木 @yuki5140

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