最終話 結婚式

 まだ、少し冷たい春の日。


 紫宸殿で開かれた宴の上座で烏帽子と狩衣を着て待っていると、白無垢を着た貴女は万感の拍手の中を、静かに、静かに進みながら、俺の横まで歩いて来て淑やかに座った。


 神主が詠み上げる祝詞を俺と共に微笑みながら聞き届け、皆が見ている前で互いに盃を交わして両家の魂を結んだ後、

 ふわふわと夢を見ているような心地で、俺が誓詞を奏上するのを横でむず痒そうに照れて笑っている姿が、俺には揺れた白百合のように愛おしく思えた。


 婚礼の儀が終わった後、引き続いて宴になったとき、俺は今日初めて貴女の方を見て言った。

「左手を貸して」

「ええ」


 あの日、初めて貴女を見た日から、ずっと自分に誓ってきた言葉を、今日改めて神に誓うのだと、何度も、何度も頭の中で繰り返しながら、横にいる百合の左手を取って、懐から出した木の箱から自分の付けているものと同じ指輪を取り出す。


 皆が俺たちの方を不思議そうに見ている中、左手に取った指輪を、姫君のほっそりとした薬指に近づける。


 胸の奥で淀む熱を静かに吐き出しながら

その白く柔い薬指に指輪を嵌め終えると、


その薬指では、白銀の輪が光を反射して、刀のように輝いていた。

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