Quest 2-16 仲間思い
「ふふっ、パーティーか。いいね、盛大にやろう。もちろん会場はここだ。誰にも邪魔されないボクの部屋でいつまでも騒ぎ続けようよ」
「嫌だね。こんなじめっとした飾り気もないとこで盛り上がれるか」
「なら、ゴブリンにでも用意させよう。とびっきり豪華なやつをね。食事は何がいい? 男の子はやはり肉かな? 魚、野菜……そうだ。王都を襲って、最高級の食材を調達すれば悩みも解決だね」
「してねぇよ!!」
地面がえぐれる脚力でキリカとの距離を詰める。
俺のように徒手空拳をメインにして戦う冒険者は少ない。
肉体強化のスキルを持っていても剣や斧といった武器を使用する。
魔法の存在がある世界でリーチ差は無視できないし、手軽に命を狩れるからだ。
であるならば、なぜ俺は今の戦闘スタイルを選んだか。
素人が肉体強化と剣術の両方を極めるのは難しかったというのもある。
けど、理由のうち大部分を占めたのはいつだって死ぬときは身一つだから。
死にゆく命で武器を満足に扱えるか。巨大な力を前にして逃げ切れるか。
最悪の状況を打破する時に必要なのは己の肉体にどれだけの時間を注いだかなのだ。
今まさに俺は追い詰められている。
疲れはたまってるし、痛い思いしてメンタル辛いし、そのうえ相手はランクが上。
しかし、努力した時間は裏切らない。
俺の
「しっかり受けきれよ、キリカ!」
「舐めてもらっちゃ困るよ。これでもボクはダンジョンの主だぜ?」
繰り出した右ストレート。
キリカは合わせるように右腕を突き出し、手のひらで受け止めた。
「これくらいなら動けるさ」
「そう簡単に受けられると凹むだろうが!」
連続して打ち出す両拳。上下左右、スキルでの強化を存分に施した攻撃。
そのどれもが完璧に受けきられ、完全に彼女に捕まる。
「そんながむしゃらに頑張っても意味ないのに……かわいいなぁ、リーダーくんは」
「余裕綽々でこっちはムカついてるけどな」
「怖い怖い。リーダーくんはもう忘れちゃったのかな? ボクのスキルを」
「【
術者に未来と選択肢を提示するスキル。
俺のどんな攻撃もキリカにダメージを与えきれないのは必ず防げる選択をしているから。
つまり、彼女の予測できる範囲での攻撃はすべて防がれる。
「ボクよりも強かったらこうはうまくいかないけど、今の君なら脅威じゃないってわけさ」
「いちいち煽りやがって。さっきのこと根に持ってんのかよ?」
「当たり前だよ。ボクも女の子なんだから優しく扱ってくれないと困る」
「……それもそうだな。すまなかった」
「あっ、いや、そんな落ち込まなくてもいいんだ。この通りダメージはほとんどなかったし――」
「――隙ありっ!」
「――さっきの今で顔を狙うなんて鬼かな!?」
まっすぐ蹴り上げた右足は上体をそらされて空を切る。
だが、束縛は解けた。
即座に距離を取り、戦況を立て直す。
「リーダーくんはボクの扱いが雑じゃないかい?」
「わがままなキリカにはこれくらいで十分だろ」
「それはボクのセリフだよ。ボクの提案を受け入れたら仲良くみんなで暮らせるというのに」
「譲る気はない。いつまでたっても平行線だぜ」
「……だね。勝者の意見が通る。わかりやすくていい」
ボコボコと隆起するキリカの腕。
ポンプでくみ上げるように先っぽへと何かが送られ続ける。
肥大した触手の先は彼女の顔ほどの大きさになっていた。
「ボクの血はね、
「……それがどうした?」
「リーダーくんは過剰な回復薬の摂取がどんな結果を生み出すか知っているかい?」
「っ……!」
囲うように俺めがけて伸びた二本の触手。
この位置はマズい!
ムチのようにしなるそれを弾くが、俺の拳を支点に柔らかな触手は折れ曲がり、軌道を変えて襲い掛かってくる。
「厄介なことを……!」
とっさに空いている手でガードすると、膨らみが当たって破裂した。
中から飛び出る濃い緑色の液体。
それが腕に付着すると、さきほどの彼女のように肉が膨張し、皮膚が耐えきれずに破裂した。
「ぁぁぁぁぁっ!?」
激痛で視界がチカチカする。
痛い、痛い、痛い!
思い切り声を出して誤魔化そうとしても、我慢できない痛み。
繊維や骨まで丸見えの状態になった腕はプラプラと辛うじてつながっている状態。
とっさにスキルの気力を回したが、それでも半分が食いちぎられたように損傷していた。
何が起きたかわからないがアレを食らうのはヤバイ!
頭に液体がかかってしまった自分を想像する。
間違いなく死ぬ……!
「
包囲網から抜け出そうにもどこまでも伸び続ける触手が行先を阻む。
ちぎれそうな腕をかばいながらではまともに動けない。
逃げろ……! 逃げないと死んでしまうぞ!
痛みが思考を乱す。
焦りが視野を狭くする。
「ボクはヒールスライム。いくらでも回復薬を作り出せる。……ねぇ、リーダーくん。もう一回だけチャンスをあげよう」
甘美な誘いが脳を揺さぶる。
「ボクと一緒に暮らそう。魔物になる道を受け入れてくれたら悪いようにはしない」
暗くなりゆく視界の中でただ一人映る彼女は恍惚と頬を染めていた。
「なんてったってボクは仲間思いだからね」
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