Quest 2-14 破壊神の光閃
戦神の弾撃が全体への衝撃波だとすれば、これはより一点に集中させた特化型。
その分、反動も大きく先生が普段の使用を封じたほどだ。
実際に俺もすごい痛い思いをしたから使わずに来た。
だからこそ、撃つならここしかない。
腕の耐久的にも放てるのは一度きり。
そのためにも、まず下準備を整える!
「
ラトナが後方から弓での援護をしてくれる。
奴にいらだちを与えるように命中率より速度を意識した射撃。
それでも決して外さないのだから、彼女の腕には頭が下がる。
「なんだぁ、ナグリアイが好みか?」
「ああ。最後まで付き合ってくれよ」
二度、三度と拳が交わりあい、お互いの動きを読み合う。
俺の攻撃を受けてもいいキングに対して、こっちは一発が致命傷になりかねない。
自然と優位性が傾き始める。
「コレでどうだァ!」
「こなくそっ!」
毒飛沫による目つぶし。
しゃがみ込んで避けるが、待ち受けていたのは振りかぶられた足だった。
「ぐふっ!?」
つま先が腹を捉える。
すくい上げるように上空へと身を放り出された。
態勢を立て直そうにも力が入らない。麻痺毒が全身に回っている。
こいつ毒の種類も変えられるのか!
「オワリだ! お前をタベテ、オレは完成スル!」
大口を開けて待ち構えるキング。
そう簡単にやられてたまるかよ……!
俺には頼りがいのある仲間がいるんだぜ。
「ラトナちゃん、
「そうはさせないの!」
矢が頬をかすり、瓶が割れて液体が体中にかかる。
中和されていく毒。
「これでも食べてろよ!」
「グッ! 小癪な手をツカウ!」
クルリと一回転して強烈なかかと落としをお見舞いする。
だが、これもまた硬化の前に威力は半減してしまう。
体勢を崩すも、倒すまでには至らない。
それで十分だ。
俺の攻撃を防ぐには硬化で事足りると意識させろ。
「うらぁぁぁぁぁ!!」
連打で畳みかける。
不細工で素人のぶん殴り。
息をつく暇もなく、呼吸が保つ限り腕を振るい続ける。
「学ばんヤツダ。オマエの攻撃はムイミなんだヨ!」
「それでも! 俺はお前を倒さなければならない!」
「叶わん! オマエのイノチはここでツイえるのダ! 《毒刀》!」
腕から射出される毒飛沫が刀となって横薙ぐ。
バックステップして間をとるが、今度はキングが詰めてきた。
「オラオラオラオラオラ!」
「調子乗ってんじゃ……ねーぞ!」
がむしゃらに振り回される刀を躱して、手首を抑え込む。
硬化でガードされるも前足蹴りで吹き飛ばし、しっかりと距離を離した。
助走距離、確保。
こっちのタイミングで仕掛ける。
「《
先行する優奈の魔法。
光り輝く球体が四方八方からキングへと襲い掛かる。
それを見た俺も走り出した。
仲間を信じて、ただ真っ直ぐに。
「森いちばんの射手の実力、焼き付けなさい!」
ラトナが解き放った矢はキングめがけて……ではなく、優奈の魔法へと命中する。
事前に知っていた俺は目を閉じて、走り抜ける。
次の瞬間、魔法はキングに当たる前に破裂し、まばゆい光が点滅した。
「グォッ!? 餌どもがコシャクな!」
キングの気が俺から逸れる。
彼女たちに託した役目は二つ。
数瞬の隙を生み出すこと。二人がトドメを差すこと。
俺はそのための道を作る。
二度目の
「今度こそ倒れてもらうぜ、キング」
「効かぬとイッテイル!!」
瞬く間に色を変えるキングの肌。
俺の拳が到達する前に防御態勢が整う。
それこそが己を死に導く行為と知らずに。
確かにお前は知恵をつけた。
硬化が絶対な対策だと学んだ。
だから、どんな攻撃に対しても硬化で受けようと無意識に『回避』の選択肢を捨てている。
「お前は人間に近づいたから負けるのさ」
元来、戦神の弾撃は衝撃に耐えうるために肉体へも気力を割いている。
自分を守るための保険までも攻撃へ転換。
脚から、へそから、すべてを右腕に流す。
「腕一本くれてやる。その代わり、お前の命はもらうぞ」
意識するのは
腰をねじり、左手を腰まで引く。
連動して打ち出される貫手。
全力の攻撃が当たる瞬間に全力の気力を持ってくる。
痛みを恐れるな。
宿敵に永遠の敗北を刻み付けろ。
心に眠る
戦いの神は破壊の権化へと堕ちて、降臨する。
「――
骨が砕ける音が頭に響く。
同時に耳をつんざく雄叫び。
グチャグチャに折れ曲がった指は硬化を貫いて、確かに心臓に届いた。
「――――!」
人間ではない化け物の悲鳴は聞き取れない。
肉がえぐられ、体に穴をあけられたキングは膝をつき、血をぶちまける。
だが、それでも絶命には至らない。
ここから心臓を破壊するのは俺ではなく、彼女たちの出番だ。
「マナト!!」
「雷神よ。轟け。響かせ。撃ち落とせ」
ラトナが撃った矢を掴んで、キングの心臓に突き立てる。
「これは特注でな。お前用に毒耐性のある金属をふんだんに使っているのさ」
「タスケ……タスケテ……」
「……よかったな。また一つ、人間らしくなったじゃねぇか」
金属の矢。そして、うちには雷魔法を得意とする魔法学院主席の弟子がいる。
ここから導き出される答えは一つだ。
「大いなる自然の力を思い知らせろ。――《
顕現した雷光は金属に引き付けられるように軌道を描く。
矢に触れた瞬間、大きな破裂音が鳴り響き、まばゆい光が部屋を白く染める。
目を開けると散らばった肉片が転がっていた。
心臓が壊されれば、どんなに強力な魔物でも命を保てなくなる。
「キング……討伐完了」
悪夢は滅び去ったのだ。
「愛人くん!!」
「やったね、マナト!」
殊勲を立てた二人が駆け寄って飛びついてくる。
あっ、ちょっと待って、今は抱きしめられると右腕ががががっ!?
「きゃー!? マナトが死んだ!?」
「わーっ、ごめん! 回復薬、回復薬!」
ゴポゴポと体内に注がれ、傷口にも回復薬をかけるとみるみるうちに元に戻っていく右腕。
あれだけ感じていた激痛も余韻は残るが、ほとんど引いていた。
さすが異世界。魔法は偉大だ。
「……もう大丈夫?」
「ああ、この通りピンピンしてるよ」
「よかったぁ。……改めておめでとう、愛人くん!」
「ナイスファイトだったよ!」
「それは二人もだろ。助かったよ」
「えへへ~」
喜びを分かち合い、二人とハイタッチする。
ジーンと熱が広がる手のひらを握りしめた。
俺だけでは勝利はつかめなかった。
この結末は三人……いや、四人で勝ち取ったものだ。
「キリカもありがとう! 安全を確保してくれたからキングに集中できた」
「……ああ、おめでとう、リーダーくん」
クラスメイトのそばで手を振るキリカ。
……さて、あとは地上へ戻るだけなのだが。
「……壊しておくか、魔結晶?」
キングを倒し、守護者のダンジョンボスもなぜか見当たらない。
野ざらしになった魔結晶。
またとないチャンスだ。
ダンジョンの機能を停止させれば帰りの道もより安全になるだろう。
「ワタシは賛成なの! ダンジョンを完全踏破したら報酬いっぱいもらえるよ!」
「もうっ、ラトナちゃんったら……。でも、やるなら早くやった方がいいと思うな。ボスがどこをうろついているかもわからないし……」
「確かにそれもそうだな」
だったら、そばにいる彼女に頼んだ方が早い。
魔結晶くらいならキリカでも破壊できるはず。
「キリカ! それ壊してくれるか?」
「……いや、できないね」
首を左右に振るキリカ。
ダンジョンの動力源だけあって硬さも違うのだろうか。
なら、仕方がないな。
「そっか。なら、俺がそっち行くから」
「違う。そういう意味じゃないよ、リーダーくん」
「どういうことだ?」
言葉遊びの意図が分からず、聞き返すとキリカは目を伏せてこう告げた。
「ボクの大事な魔結晶を壊されるわけにはいかないのさ」
「……キリカ?」
「……改めて、みんなに名乗ろう。
ボクは【食人魔族の棲家】の守護者、キリカ・フレッチア。
――よろしくね、異世界人?」
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